Case Study

セレッソ大阪が示すスポーツクラブの未来──専門部署立ち上げとパートナー連携で実現する本気のサステナビリティ経営

Jリーグ初となるサステナビリティ専門部署を2024年8月に立ち上げたセレッソ大阪。ペットボトル回収だけで年間16万本の水平リサイクルを実現し、CO2削減量は約10.5トンに達する。大阪ガス、ヤンマー、キリンビバレッジなど6社のSDGsパートナーとの連携、選手への環境研修、ファン参加型の取り組みまで──単なる「CSR活動」を超え、クラブ経営の中核に環境・社会課題を据えた戦略の全貌を追う。

Field & Future 編集部読了 約8分
セレッソ大阪が示すスポーツクラブの未来──専門部署立ち上げとパートナー連携で実現する本気のサステナビリティ経営

2024年8月、J1セレッソ大阪が社長室直轄の「サステナビリティグループ」を立ち上げた。Jリーグクラブでは異例となる専門部署の設置だ。同年のペットボトル回収実績は4,610kg、約16万本の水平リサイクルを実現し、CO2削減量は10.5トンに達する。大阪ガス、ヤンマー、キリンビバレッジら6社のSDGsパートナーとの戦略的連携、選手への環境研修、ファン参加型の多角的プログラム──。森島寛晃社長が「10年後、20年後に評価されればいい」と語るこの取り組みは、単なるCSR活動を超え、クラブ経営の中核に環境・社会課題を据えた本格的な経営戦略だ。スポーツクラブが示す「持続可能性」の新しい地平を、具体的な数字と現場の動きから読み解く。


Jリーグ異例、社長室直轄「サステナビリティグループ」の衝撃

2024年8月1日、J1セレッソ大阪を運営する株式会社セレッソ大阪は、社長室直轄の専門部署「サステナビリティグループ」を立ち上げた[3]。Jリーグのクラブでは、J1川崎フロンターレやJ2清水エスパルスなど個別の取り組みに熱心なクラブは存在するものの、専門部署を設置するのは異例の動きだ[5]。グループ長には宮島武志副社長が就任し、クラブ全体のサステナビリティ戦略を統括する体制が整った[3]。この決断の背景には、「サッカーができる環境は当たり前ではない」という危機感と、10年後、20年後を見据えた経営判断がある。

この組織改編の発端は、意外にも日常生活のささやかな困りごとだった。宮島副社長が自宅で使っていた中にビーズが入ったクッションの処分方法に悩み、知人に相談したところ、ゴールドパートナーのキリンビバレッジがペットボトルの「水平リサイクル」に取り組んでいることを知ったのである[5]。水平リサイクルとは、使用済み製品の容器を回収して同じ種類の製品として生まれ変わらせる仕組みで、同社によれば新規製造のペットボトルと比較して石油由来樹脂使用量を90パーセント、温室効果ガス排出量を50〜60パーセント削減できるという[5]。この話を聞いた森島寛晃社長は即座に動き、2024年2月24日のFC東京戦から「SDGsブース」をスタジアムに常設し、「Bottle to Bottleプロジェクト」をスタートさせた[5]。

森島社長の経営判断は、短期的な成果よりも長期的な価値創造を重視したものだ。「将来の子どもたちも、私たちと同じようにサッカーができるような環境にしたい。今はどう思われても、10年後、20年後に、こういう活動をやってくれていてよかったと思ってもらえればそれでいい」と語る[5]。気象庁が2011年から「高温注意情報」を、2020年から「熱中症警戒アラート」の発信を始めたように、十数年前には考えられなかった気候変動の影響が、すでにスポーツ環境を脅かしている[5]。この危機感が、専門部署設置という組織的コミットメントにつながった。

専門部署の立ち上げと並行して、セレッソ大阪は2024年4月に「SDGsパートナー」制度を新設した[3]。第1号パートナーとして大阪ガス、ヤンマーエネルギーシステム、キリンビバレッジ、Any Kids Place、塩野義製薬、千里ライフサイエンスの6社が参画し、企業連携によるサステナビリティ活動を加速させる体制を整えた[3][7]。これらのパートナー企業との協働により、ホームゲーム全試合でCO2排出量を実質ゼロにする「CO2ゼロチャレンジ」や、発達に課題のある子どもとその家族を対象にした「親子サッカー教室」などの取り組みを展開している[3]。サステナビリティを経営の中核に据え、パートナー企業との戦略的連携を推進する──セレッソ大阪の挑戦は、Jリーグにおける新たなクラブ経営のモデルを示している。

数字で見る実績──ペットボトル16万本、CO2削減10トンの衝撃

# 数字で見る実績──ペットボトル16万本、CO2削減10トンの衝撃

2024年シーズン、セレッソ大阪が「Bottle to Bottleプロジェクト」で回収したペットボトルは重量にして4,610kg。これが水平リサイクルによって約16万本のペットボトルに再生された[9]。回収本数だけを見れば他のイベントでも達成可能な数字かもしれない。だが重要なのは、これが「サッカークラブのホームゲーム」という限定的な場で、一シーズンを通じて継続的に積み上げられた実績だという点だ。キリンビバレッジとの協働で実現したこの取り組みは、スポーツイベントにおける資源循環の実践モデルとして、明確な数値的インパクトを示している。

CO2削減効果はさらに具体性を帯びる。回収したペットボトル4,610kgを焼却せず水平リサイクルに回すことで、約10,557kg──つまり約10.5トンのCO2排出を削減できた計算になる[9]。ペットボトル1kgを焼却すると約2.29kgのCO2が発生するとされており、回収量に応じて削減効果も比例して拡大する。加えて、水平リサイクルで製造される新しいペットボトルは、バージンプラスチックから新規製造する場合と比べて石油由来樹脂の使用量を90%削減し、温室効果ガス(GHG)排出量を50〜60%削減できる[5]。つまりこのプロジェクトは、廃棄物削減と製造過程での環境負荷低減という二重の効果を生み出している。

試合単位で見ると、その継続性の凄みがより際立つ。直近のホームゲーム、7月20日のアルビレックス新潟戦では、90リットルのゴミ袋150袋分、440kgのペットボトルを回収[5]。計算上、ホームゲーム1試合あたり約1トンのGHGが削減できるという。年間を通じてヤンマースタジアム長居(ヨドコウ桜スタジアム)で開催されるホームゲームは十数試合に及ぶ。これを単純計算すれば、ペットボトル回収だけで年間10トン以上のGHG削減が見込めることになる。一過性のキャンペーンではなく、シーズンを通じた"インフラ化"が、確実に環境負荷を下げている。

さらに注目すべきは、ペットボトル本体だけでなく、キャップも同時に回収・リサイクルしている点だ。2024年シーズンには230.5kgのキャップを回収し、約660kgのCO2削減を達成した[9]。キャップは1kg当たり約2.86kgのCO2を発生させるため、本体よりも排出係数が高い。細部まで拾い上げる姿勢が、全体の削減効果を底上げしている。こうした「見える化」された数値の積み上げは、ファンやスポンサーに対する説得力を持ち、サステナビリティ活動への信頼醸成につながる。

一方、ペットボトル回収と並行して、セレッソ大阪は2012年から「CO2ゼロチャレンジ」を継続している[5]。大阪ガス、ヤンマーエネルギーシステムといったパートナーと連携し、全ホームゲーム開催時に発生するCO2排出を実質ゼロ化する取り組みだ。試合開催には照明、空調、輸送など多様なエネルギー消費が伴う。これを「カーボンオフセット」の仕組みで相殺し、12年以上にわたって維持してきた実績は、Jリーグ内でも稀有な長期プロジェクトと言える。試合という"非日常"の場を、環境負荷ゼロで成立させる──その積み重ねが、クラブの信頼資本を形成している。

これらの数値が意味するのは、単なる「環境配慮のポーズ」ではなく、事業活動そのものに組み込まれた継続性と透明性だ。回収量、削減量、再生本数といった具体的な実績が公開され、検証可能な形で示されることで、ステークホルダーは活動の真剣度を測ることができる。スポーツクラブがサステナビリティに本気で取り組むとき、数字は最も雄弁な証拠となる。

企業パートナーシップの実践──6社との戦略的連携の中身

セレッソ大阪のサステナビリティ戦略は、6社のSDGsパートナーとの戦略的連携によって支えられている。2025年4月時点で、大阪ガス、ヤンマーホールディングス、キリンビバレッジ、塩野義製薬、ドコモ・バイクシェア、Andonなどが名を連ねる[7]。これらの企業は単なる協賛ではなく、各社の本業における環境・社会課題解決の文脈でクラブと連携し、共に具体的な成果を追求する関係を築いている。クラブが掲げる「未来の子どもたちにもサッカーができる社会・環境を残したい」というビジョンに共感し、各社の強みを持ち寄る構造が、Jリーグでも際立つパートナーシップモデルとなっている。

ヤンマーホールディングスは2025年4月、セレッソ大阪の新設した「サステナビリティパートナー」第一号として契約を締結した[6]。同社が掲げる「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」は、GHGフリー・環境負荷フリーの企業活動を目指す長期戦略であり、セレッソ大阪との連携はその実践の場として位置付けられている。具体的には、2012年から続く「CO2ゼロチャレンジ」を大阪ガスと共に推進し、Jリーグ全ホームゲームのCO2排出量を実質ゼロにするプロジェクトを継続している[8]。Jクレジットやグリーン電力を活用し、試合運営に伴う排出をオフセットする仕組みは、スポーツイベントのカーボンニュートラル化における先駆的事例として、第3回カーボン・オフセット大賞で経済産業大臣賞を受賞した実績を持つ[7]。

キリンビバレッジとの連携は、消費者参加型の循環経済モデルを構築している。「Bottle to Bottle」プロジェクトでは、スタジアムで回収した使用済みペットボトルを新たなペットボトルに再生する水平リサイクルに取り組む[8]。ファン・サポーターはQRコードを通じて回収に参加でき、自分が出したペットボトルがどのように循環するかを可視化する仕組みが導入されている[7]。これは単なる分別回収ではなく、リサイクルのトレーサビリティを確保することで参加者の当事者意識を高め、スタジアムを環境教育の場として機能させる設計になっている。キリンビバレッジの技術力とセレッソ大阪のファンエンゲージメント力が組み合わさった、企業パートナーシップの好例と言える。

ドコモ・バイクシェアとの連携は、モビリティ起点のCO2削減を具現化している。2024年9月、大阪市内にセレッソ大阪特別仕様のシェアサイクル100台が導入された[4]。これは、スタジアム来場者の移動に伴うCO2排出が「CO2ゼロチャレンジ」における最大の課題であったことへの対応策である。2025年4月単月の実績は、利用回数8,675回、総走行距離22,897km、CO2削減量約2,976kg(約3トン)に達した[4]。年間換算で約36トンのCO2削減が見込まれる計算となり、これは一般家庭約8世帯分の年間排出量に相当する。大阪市東住吉区との連携協定のもと、試合日だけでなく日常の二次交通としても機能させることで、スポーツイベントを超えた地域の移動利便性向上にも寄与している。

塩野義製薬やAndonといった企業も、それぞれの専門性を活かした連携を展開している[7]。塩野義製薬は健康・福祉分野でのSDGsゴール達成に向けた協働を、Andonは発達障がいのある子どもたちを支援する「BLOOM SMILE」プロジェクトでセンサリールームの常設や親子サッカー教室の開催を支援する[8]。これらのパートナーシップは、単一の環境目標にとどまらず、「環境」「健康・福祉」「教育」「地域活性」「DE&I」という5つの重要課題に対して、各社の本業の強みを持ち寄る多層的な連携構造を形成している。企業にとっては自社のサステナビリティ戦略の実践の場となり、クラブにとっては専門性と資源を獲得できる互恵関係が成立している。

ファンと選手を巻き込む「当事者化戦略」の設計

2026年1月25日、セレッソ大阪はトップチーム選手全員を対象としたサステナビリティ研修を実施した[1]。この研修は単なる座学ではなく、「サッカーができる環境は決して当たり前ではない」という視点から、現在の地球環境を取り巻く状況とスポーツの関係性を選手たち自身に考えさせる内容だった。研修中、選手たちは講師の話に真剣に耳を傾け、積極的に理解を深める姿が見られたという[1]。プロアスリートとしてのパフォーマンス追求だけでなく、社会とつながる存在であることを意識させる狙いがここにある。この研修では、クラブ理念の共有とあわせて、プレミアリーグが参画する「Sport Positive League(SPL)」の事例が紹介された[1]。

SPLは、クラブの気候アクションを12項目にわたって数値化し、スポーツファンに馴染みのある順位表形式でスコアを公表する仕組みだ[1]。試合会場や施設のエネルギー効率、再生可能エネルギーの利用、リサイクルや廃棄物削減の取り組み、ファンや選手の移動に伴うCO2排出量の管理、ホームタウンとの連携や選手等への環境教育の推進など、多岐にわたる活動の効果をデータとして収集する[1]。エネルギー、廃棄物、交通といったカテゴリーテーマ別に加重を設けて総合点を算出し、参画するクラブが横断的に比較される仕組みだ。データ駆動型のアプローチにより環境への取り組みが可視化され、スコアを公表することで最善策の共有を促進し、より高い目標を追求する動機付けが備えられている点が特徴となっている[1]。世界基準の環境配慮を学ぶことで、選手たちは自らの活動が地球規模の課題とつながっていることを実感する機会を得た。

選手が学んだ知識は、ファンへの発信にも活かされる。セレッソ大阪は今後、選手や社長自らがリサイクル方法をレクチャーする映像をハーフタイムに放映する予定だという[3]。スタジアムの大型ビジョンで選手が登場し、ペットボトルのキャップとラベルの外し方、分別の仕方を実演する。ファンにとって憧れの存在である選手が自ら手本を示すことで、環境配慮行動への心理的ハードルを下げ、スタジアム全体での実践率向上を狙う。善意の押し付けではなく、選手とファンが共に学び、共に実践する「当事者化」の設計がここにある。

この当事者化戦略の核となるのが、ヤンマーエネルギーシステム協賛による「サステナビリティパーク」だ[2]。2025シーズンに新設されたこのエリアは、明治安田J1百年構想リーグでも継続して実施されており、2026年2月7日のガンバ大阪戦では13時から16時までバックスタンド側場外に設置された[2]。パーク内では、CO2ゼロチャレンジブース、Bottle to Bottleプロジェクト、フードドライブ、絵本図書館への寄付受付、ユニフォームリメイク素材の回収、選手SDGs宣言の展示が同時展開される[2]。キリンビバレッジ協力のもと使用済みペットボトルの本体とキャップを回収し、新しいペットボトルに生まれ変わらせる水平リサイクルの展示も行われる[2]。一つのエリアに多角的な参加機会を集約することで、来場者は自分に合った形で環境活動に関わることができる。

特筆すべきは、フードドライブと絵本図書館、ユニフォームリメイクという三つの取り組みが、いずれも「ファンが持っているもの」を起点にしている点だ[2]。家庭で余っている食品は大阪市社会福祉協議会や堺市福祉協議会を通じて食品を必要とする方へ届けられ、食品ロス削減にもつながる[2]。未開封かつ賞味期限が2か月以上残存し、常温保存が可能で日本語表記のある缶詰、レトルト食品、インスタント食品、お菓子、調味料などが対象となる[2]。読み終わった絵本は、ホームゲームに訪れた子どもたちが自由に本に親しめる絵本図書館の設置に活用される予定で、寄付者には絵本の感想や思い出などのメッセージを添えてもらう仕組みだ[2]。着用頻度が低くなったユニフォームは、障がいのある方や高齢の方も快適に着られる「アダプティブウェア」にリメイクされ、アダプティブファッションショーで発表される[2]。マジックテープ、磁気ボタン、サイドファスナー、シームレス(継ぎ目なし)など、身体への負担を軽減する衣服として生まれ変わり、「誰もがファッションを楽しめる未来」の実現に貢献する構想だ。ファンが過去にクラブと共に戦ったユニフォームが、誰かの新たな一歩のために活かされる物語は、単なるリサイクルを超えた情緒的価値を生み出している。

地域連携の深化──西田辺商店街、福祉協議会との協働モデル

西田辺商店街との連携企画「まちバル×セレッソ大阪 フードドライブ "つながる"」は、スポーツクラブと地域商店街が食品ロス削減という社会課題に共同で取り組む新しいモデルとして注目される。2026年2月7日のガンバ大阪戦と3月7日の清水エスパルス戦の2試合を対象に、「西田辺&鶴ケ丘まちバル」と連携したフードドライブを実施した[2]。スタジアムだけでなく商店街という生活圏にも活動の場を広げることで、試合に来場しないファンや地域住民も巻き込む仕組みを構築している。缶詰、レトルト食品、インスタント食品、調味料など未開封で賞味期限が2か月以上残っている常温保存可能な食品を対象とし[2]、家庭内の「もったいない」を社会貢献に転換する導線を地域に埋め込んだ。

集められた食品は大阪市社会福祉協議会と堺市社会福祉協議会を通じて、支援を必要とする世帯へ届けられる[2]。この仕組みの優れた点は、単なる善意の回収に終わらず、福祉セーフティネットと接続することで「誰に、どのように届くか」が可視化されている点にある。フードドライブは食品ロス削減と福祉支援という二つの社会的価値を同時に生み出す活動であり、セレッソ大阪はスタジアムというハブを活かして地域の食品循環システムの一翼を担っている。商店街との連携により、試合開催日以外の日常的な接点も創出でき、クラブの社会的存在意義を継続的に訴求する場となっている。

さらにセレッソ大阪は、誰もがファッションを楽しめる未来を目指す「アダプティブファッションショー」に協力し、障がい者モデルと学生によるユニフォームリメイクプロジェクトを推進している[2]。このイベントでは、障がいのあるモデルとファッションを学ぶ学生がチームを組み、体の特性に合わせたデザインで障がい者や高齢者も快適に着られる「新しいユニフォームスタイル」を提案する。具体的には、マジックテープ、磁気ボタン、サイドファスナー、シームレス構造など身体への負担を軽減する仕様を取り入れたアダプティブウェアとして、使用頻度が低くなったユニフォームをリメイク素材として活用する[2]。スタジアムでも心地よく楽しめる環境づくりを通じて、DE&I(多様性・公平性・包摂性)の理念を衣服という具体的な形に落とし込んでいる。

移動の利便性向上と地域活性化においては、大阪市東住吉区と株式会社ドコモ・バイクシェアとの連携協定が重要な役割を果たしている。セレッソ大阪特別仕様のドコモ・バイクシェアを2024年9月28日より大阪市内で100台導入し[4]、ホームゲーム来場者の移動に伴うCO2排出削減と二次交通の利便性向上を同時に実現している。2025年4月度の実績では、利用回数8,675回、総走行距離22,897km、CO2削減量約2,976kgを記録した[4]。市内の二次交通としての役割だけでなく、来訪者の区内回遊性向上によるまちの賑わい創出と活性化も狙いとしており、スタジアムを起点とした地域経済への波及効果が期待されている。シェアサイクルという日常的なインフラにクラブのアイデンティティを刻むことで、試合開催日以外の365日における地域でのプレゼンス向上にも寄与している。

これらの地域連携は、セレッソ大阪が単なるスポーツエンターテインメント提供者ではなく、地域課題解決のプラットフォームとして機能していることを示している。商店街、福祉協議会、行政、民間企業という多様なステークホルダーと「食」「衣」「移動」という生活に密着したテーマで協働することで、サステナビリティを特別なイベントではなく日常の一部として定着させている。ヨドコウ桜スタジアムを中心とした半径数キロ圏内に、クラブの価値観を体現する社会実装の場を複数構築し、地域住民が「セレッソと共に暮らす」という感覚を醸成している点が、この戦略の本質である。

スポーツクラブが切り拓くサステナビリティ経営の未来図

# スポーツクラブが切り拓くサステナビリティ経営の未来図

セレッソ大阪の取り組みは、日本のサッカー界全体に波及する可能性を秘めている。Jリーグを運営する公益社団法人日本プロサッカーリーグは2023年に「サステナビリティ部」を新設し、気候変動対策として2030年までにCO2排出量半減という明確な数値目標を掲げた[3]。リーグ本体がこうした専門組織を設置したことで、各クラブレベルでの取り組みを後押しする体制が整いつつある。セレッソ大阪の社長室直轄という組織構造は、トップマネジメントの強いコミットメントを示すものであり、他クラブの経営陣にとっても参考になるモデルケースとなるだろう。J1川崎フロンターレやJ2清水エスパルスなど、既に熱心に環境活動に取り組んでいるクラブは存在するが[5]、専門部署の設置という点でセレッソ大阪は一歩先を行く形となった。

この動きは、Jリーグというプロスポーツリーグ全体のサステナビリティ経営を加速させる可能性がある。複数のクラブがペットボトルの水平リサイクルプロジェクトを実施しており[3]、試合開催時のCO2排出量削減は共通の課題として認識されている。セレッソ大阪が2024年2月24日のFC東京戦からスタートさせた「Bottle to Bottleプロジェクト」では、7月20日の新潟戦で90リットルのゴミ袋150袋分、440キログラムのペットボトルを回収し、ホームゲーム1試合あたり約1トンのGHG削減を実現している[5]。こうした具体的な成果とノウハウが他クラブと共有されることで、リーグ全体の環境負荷低減につながる。森島寛晃社長が語る「この活動を大きなムーブメントにしたい」[5]という言葉は、クラブ単体の取り組みを超えた業界全体への波及を見据えたものだ。

スポーツクラブが持つ「人と人を結ぶ力」は、他産業にも応用可能な社会課題解決のモデルとなり得る。セレッソ大阪が2024年4月に新設した「SDGsパートナー」制度には、大阪ガス、ヤンマーエネルギーシステム、キリンビバレッジ、Any Kids Place、塩野義製薬の5社が第1号パートナーとして参画し[3]、それぞれの専門性を活かした協働プロジェクトが展開されている。2023年に始まった「セレッソアイデアちょうだいな」では、ホームスタジアムでDJを務める西川大介氏の発案によりファンからサステナビリティ活動のアイデアを募集する仕組みが構築された[3]。選手、経営陣、ファン、企業パートナー、地域住民という多様なステークホルダーを巻き込む構造は、スポーツクラブならではの求心力を活かしたものだ。この「当事者化戦略」は、製造業やサービス業など他産業における顧客エンゲージメント施策にも示唆を与える。

最も重要なのは、サステナビリティが「善意の活動」から「経営の中核戦略」へと位置づけられた点である。森島社長は「将来の子どもたちも、私たちと同じようにサッカーができるような環境にしたい。今はどう思われても、10年後、20年後に、こういう活動をやってくれていてよかったと思ってもらえればそれでいい」[5]と語る。この発言は、短期的な評価や批判を恐れず、長期的な視点で投資判断を行う経営姿勢を示している。気象庁が2011年に「高温注意情報」、2020年に「熱中症警戒アラート」の発信を始めた事実が示すように[5]、気候変動は既にスポーツの実施環境そのものを脅かしている。セレッソ大阪の取り組みは、事業継続性(Business Continuity)の観点からも合理的な戦略投資であり、10年後の競争優位性を見据えた経営判断なのだ。

サステナビリティ経営への転換は、スポーツクラブのブランド価値を再定義する契機でもある。従来、クラブの価値は試合結果やタイトル獲得数、スター選手の獲得といった要素で測られてきた。しかし、社会課題解決への貢献度や地域との共生、次世代への責任といった非財務指標が重要性を増す中で、クラブの存在意義そのものが問い直されている。セレッソ大阪が社長室直轄でサステナビリティグループを立ち上げた背景には、こうした価値観の変化がある。「サッカーをさせてもらえることは、当たり前ではない」[5]という森島社長の言葉は、プロスポーツクラブが社会から付与されたライセンスを持続可能な形で維持していくための覚悟を表している。

この先10年、スポーツビジネスにおけるサステナビリティ経営の成否は、クラブの競争力を左右する要因となるだろう。若い世代ほど環境意識が高く、企業や組織の社会的責任を重視する傾向にある。将来のファン層を獲得し、優秀な人材を惹きつけ、責任ある投資家から資金を調達するためには、セレッソ大阪が示したような本気の取り組みが不可欠となる。Jリーグ全体がこの方向に舵を切ることで、日本のスポーツ界は欧州のトップリーグに劣らないサステナビリティ先進地域となる可能性を秘めている。セレッソ大阪の挑戦は、その先駆けとして記憶されることになるだろう。


参考文献 / Sources

https://www.cerezo.jp/news/2026-0125-1930/

https://www.cerezo.jp/news/2026-0206-1030/

https://www.alterna.co.jp/133758/

https://www.cerezo.jp/news/2025-0516-1600/

https://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2024/08/01/kiji/20240731s00002179347000c.html

https://sjn.link/news/detail/type/topic/id/10502

https://www.cerezo.jp/sdgs_partner/

https://www.cerezo.jp/partners/sdgs/

https://www.cerezo.jp/news/2024-1223-1100/

https://newji.jp/cerezo-osakas-sustainability-strategy-a-guiding-light-towards-the-future-in-the-world-of-football

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