Case Study

Jリーグが仕掛ける「気候アクション順位表」──60クラブのサステナビリティをスコア化する世界基準の挑戦

2026年秋、Jリーグは全60クラブの環境取り組みを12項目で数値化し、ランキング形式で公表する。アジア初参画のSport Positive Leaguesは、年間1250万人の観客を動員するリーグに何をもたらすのか。3年総額11.9億円の助成金設計、欧州4リーグとの比較可能性、そして「完璧より前進」を掲げる現場の葛藤を追った。

Field & Future 編集部読了 約8分
Jリーグが仕掛ける「気候アクション順位表」──60クラブのサステナビリティをスコア化する世界基準の挑戦

2026年秋、Jリーグは前例のない「順位表」を公表する。J1からJ3まで全60クラブの環境取り組みを12項目で数値化し、ランキング形式で世界に開示するのだ。アジア初参画となる国際イニシアチブ「Sport Positive Leagues(SPL)」。年間観客数1250万人、国土カバー率87%を誇るリーグが、なぜ今この仕組みを選んだのか。3年総額11.9億円の助成金、天候理由の試合中止が10年で5倍に急増した現実、そして「完璧より前進」を掲げる現場の決断。プレミアリーグ発の世界基準が、日本のスポーツビジネスに投げかける問いを追う。


プレミアリーグ発、気候アクションを「順位表」にする新常識

プレミアリーグ発、気候アクションを「順位表」にする新常識

気候アクションを「可視化」するだけでなく「順位表にする」──この発想を世界のスポーツ界に持ち込んだのが、英国の環境諮問委員クレア・プール氏である。彼女が2018年に創設したSport Positive Leagues(SPL)は、サッカークラブの環境対策を12項目の独自スコアリングシステムで定量評価し、リーグごとに順位化する仕組みだ[1][3]。2025年現在、イングランド・プレミアリーグ、ドイツ・ブンデスリーガ、フランス・リーグアン、イングランド・フットボールリーグの欧州4リーグが参画しており、Jリーグは世界で5番目、アジアでは初の参画となる[7][10]。プール氏は「サステナビリティは『やったほうがいい』ことではなく、『やらなければならない』こと。未来の世代がサッカーを楽しめる場所を守るために欠かせない取り組み」と語り、スポーツが持つ社会変革の力を強調する[3]。

SPLの評価項目は、再生可能エネルギー、使い捨てプラスチック削減、環境負荷の少ない移動手段、廃棄物管理、水の効率的利用、プラントベース食品、生物多様性、選手への環境教育、ファンへのコミュニケーション、持続可能な調達など12のカテゴリーに及ぶ[1][3]。各項目には「方針/ポリシー/戦略」として「長期ビジョン・定量/定性の目標設定・活動計画」の策定が求められ、単発のPRイベントではなく体系的な取り組みが評価される[3]。例えば再生可能エネルギーでは「再エネ比率40%以上を目標に設定し、複数の関係者と継続的に連携・協業できる社会システムを構築すること」が基準となっており[3]、クラブ単体の努力だけでなくステークホルダーを巻き込む力が問われる。

欧州では、こうした環境対応が「グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)排除」の文脈で急速に進んでいる。英国では、ファンや株主、政府が各クラブに対して環境性・社会性を強く求めるキャンペーンを頻繁に展開し、クラブ側も応答せざるを得ない状況にある[7]。その結果、欧州主要リーグの各クラブは「ESG担当者」を配置し、スペインのラ・リーガでは各クラブのESG担当者を集めて週8時間の研修を実施するほど組織的に取り組んでいる[7]。プレミアリーグのリバプールFCは2023年、持続可能なイベント運営のマネジメント規格「ISO 20121」をプレミアリーグクラブとして初めて取得し[7]、環境対応が経営の前提条件になりつつあることを示した。

Jリーグは2025年を準備期間と位置づけ、2026年1月に正式エントリー、同年秋に初回スコアとランキングを公表する計画だ[1][3]。2026年は特別シーズンとして1月から6月の活動を評価対象とし、2026/27シーズン以降は毎年7月から翌年6月までの1年間を評価期間として、毎年11月にランキングを公表する[3]。この仕組みの最大の特徴は、データ駆動型のアプローチにより「進捗を可視化し、スコアを公表することで最善策の共有を促進し、より高い目標を追求する動機付けが仕組みとして備えられている」点にある[3]。スポーツファンに馴染みのある順位表という形式は、ファンの関心を引きつけるだけでなく、クラブ間の競争原理を環境対応に応用する試みでもある[1]。

年1250万人が動く巨大リーグの「本気度」──11.9億円の助成金設計

Jリーグ全60クラブのカバー地域は日本国土の87%に及び、年間観客数は延べ約1250万人に達する[1][2]。この巨大なネットワークを活用し、リーグは気候変動対策を「経営効果を生む戦略投資」と位置づけた。野々村芳和チェアマンは2025年4月の理事会で、「環境問題への向き合いが企業との関係を深め、新しいパートナーシップ構築にもつながっている。それが結果として、クラブやリーグの価値向上に寄与する」と明言している[2]。善意の活動ではなく、ビジネス機会の創出という文脈で語られた点が注目される。この発言の背景には、欧州で既に実証されている「サステナビリティがスポンサー獲得の武器になる」という事実がある。

この「本気度」を裏付けるのが、日本財団からの3年総額11.9億円の助成金だ[1][2]。2025年度は2.4億円(3.7億円とする資料もあり、初年度配分額の表記揺れがある)が、申請クラブに均等配分される[1][6]。この配分方式が「均等」であることには理由がある。まずは全クラブが気候アクションのスタートラインに立ち、データ収集とプロセス構築の経験を積む必要があるためだ。助成金は設備投資、人材育成、データ収集システムの導入など、幅広い用途に活用される。

しかし2026年秋にSPLの初回ランキングが発表された後は、助成金の配分ルールが大きく変わる[4]。ランキング上位のクラブがより多くの配分を得る「傾斜配分」が導入されるのだ[4]。この設計は、単なる資金援助ではなく、クラブ間の健全な競争を促すインセンティブ設計である。J1昇格を目指す順位表と同様に、気候アクションでも「上を目指す動機」が組み込まれた。上位クラブは翌年度により多くの予算を得て、さらに先進的な取り組みを展開できる。この循環が、リーグ全体の底上げを加速させる仕組みだ。

一方で、Jリーグが気候問題に本腰を入れる理由は、金銭的インセンティブだけではない。天候を理由とした試合中止数は、1996年から2017年の期間は平均1.86試合/年だったのに対し、2018年から2024年は9.57試合/年と約5倍に急増している[2][7]。特にゲリラ豪雨による夏場の中止が顕著だ[1][6]。試合中止は興行収入の損失に直結し、放映権契約やスポンサー契約にも影響を及ぼす。さらに、育成年代のサッカースクールも影響を受けている。ジェフユナイテッド市原・千葉の高橋薫取締役は、2024年夏の3カ月間で65クラスが中止になったと明かした[2]。子どもたちがプレーできる環境が失われつつある現実が、「未来の子どもたちにサッカーができる環境を残す」[2]というリーグの使命感を支えている。

この11.9億円という規模は、スポーツリーグのサステナビリティ投資としては日本最大級だ。単年度の予算ではなく、3年間という中期的なコミットメントであることも重要である。クラブは単発のイベントではなく、継続的なシステム構築に投資できる。この資金を梃子に、60クラブが一斉に動き出す。それは日本のスポーツビジネスにおいて、環境対策が「コストセンター」から「価値創造の源泉」へと変わる転換点となる可能性を秘めている。

12項目の評価マトリクスが映す「クラブ経営の新指標」

SPL評価基準の背景にあるのは、12項目にわたる詳細なマトリクスである。「ポリシーとコミットメント、レポーティング」ではScope1・2・3の排出量等の客観的な情報を定めて公表することが求められ、「再生可能エネルギー」ではクラブが再エネ比率40%以上を目標に掲げ、複数の関係者と共に継続的に連携・協業できる社会システムを構築することが評価の基準となる[3]。「使い捨てプラスチック削減・廃止」では来場者が利用する場所からスタッフ専用エリア、キッチンまでを対象に使い捨てプラスチックの除去を促し、体系的に取り組むことが求められる[3]。「ゴミの削減管理」では焼却率目標を50%と設定し、「廃棄物管理/リサイクルプログラム」の導入や3R(リデュース/リユース/リサイクル)への取り組みが評価される[3]。これらはいずれも、単なる理念表明ではなく、データに基づく定量的な報告と、実際の施策実行の両方を要求する設計だ。

「教育」の項目では、全ての選手—男女トップチームだけでなくアカデミー選手も含む—に対して、PR目的ではなく環境の持続可能性や気候変動に関する教育プログラムを実施することが明記されている[3]。「コミュニケーションとエンゲージメント」では、クラブの公式HP上にサステナビリティのWebページを設置し、ファン・サポーターの環境意識や行動変化に積極的に取り組むことが求められる[3]。こうしたコミュニケーション項目の重視は、クラブが単独で環境負荷を下げるだけでは不十分であり、観客や地域社会全体を巻き込む影響力の行使こそが評価されることを意味している。SPL創設者のクレア・プール氏が「90分間の試合の周りには、社会に良い影響を生み出すチャンスが広がっている」と述べた背景には、こうしたエンゲージメント指標の設計思想がある[3]。

評価の実効性を支えるのが、SPL独自のスコアリングシステムである。エネルギー、廃棄物、交通など、カテゴリーテーマ別に加重を設けて総合点を算出し、スポーツファンに馴染みのある順位表形式でSPLからリーグごとにスコアが出され、参画するクラブが横断的に紹介される[4]。加重配分の具体的な数値は公開されていないが、例えば使い捨てプラスチックを全施設で廃止した場合に2ポイント、ファン・サポーターを巻き込んだ取り組みで+1のボーナスポイントが付与されるといった形で、実際にはより細分化された評価が行われる[3]。このスコアリングにより、クラブは自らの強みと弱みを定量的に把握でき、他クラブとの比較を通じて改善の方向性を見出すことが可能になる。

Jリーグ版SPLの策定にあたっては、国際的基準の採用と客観性の担保を目的に現行基準を踏襲しつつ、欧州と日本で推進される社会システムや基準が異なる場合には日本国内で推奨される指標を採用した[3]。例えば「持続可能な調達」では、クラブが取り扱うすべての物品について環境・倫理・社会的責任等を含む「持続可能な調達方針」を定めることが求められるが、欧州のクラブ運営・活動と日本の状況が異なる場合には、記載趣旨を修正し実効性を担保する方針が示されている[3]。12の指標に共通して記載されている「方針/ポリシー/戦略」の定義は「長期ビジョン・定量/定性の目標設定・活動計画」と設定され、全ての施設は「スタジアム・クラブハウス・練習場・クラブ事務所・ショップなど」を対象としつつ、最低要件として「スタジアム、クラブハウス、クラブ事務所」が設定された[3]。こうした柔軟性の確保により、Jクラブが現実的に取り組める水準を維持しながら、世界基準との接続を図る設計となっている。

評価マトリクスが映し出すのは、環境対策そのものというよりも、クラブ経営の透明性と戦略性である。「生物多様性」では生物多様性に関する方針や戦略を有し、クラブ内に限らず地域コミュニティに行き渡らせることで自然と地域の生態系支援に取り組むことが評価される[3]。「環境負荷の少ない移動手段」では環境負荷の少ない移動ポリシーを目に見える形で提唱し、具体的な施策を実施していることが求められる[3]。これらはいずれも、クラブが地域のステークホルダーとどれだけ継続的に連携し、影響力を発揮しているかを問う指標だ。Jリーグが2026年11月に公表する初回ランキングは[3]、順位そのものよりも、この12項目が問いかけるクラブ経営の新しい物差しの提示として、より大きな意味を持つことになるだろう。

「Progress over Perfection」──現場が語る好事例共有の価値

# 本文

2026年1月28日、東京・青山の国際連合大学で開催された「サステナビリティカンファレンス2026」。集まったJクラブ関係者と企業担当者に向けて、Jリーグのサステナビリティ領域担当執行役員・辻井隆行が繰り返し強調したのは「Progress over Perfection」という合言葉だった[8]。「100点や完璧さを求めて躊躇するよりも、みんなで一歩でも前に進もう」──英国での視察を通じて現場で何度も耳にしたこの姿勢こそが、SPL成功の鍵だと辻井は語る[8]。サッカーもスポーツも、ミスを繰り返して学ぶことで選手もチームも成長していく。60クラブが横並びで学び合う環境があれば、完璧でなくとも前進できる、というメッセージだ[8]。

従来、各クラブの環境活動は「点」で終わることが多かった。リユースカップを導入したクラブ、太陽光パネルを設置したクラブ、それぞれが独自に取り組んでいたものの、その効果や再現性を他クラブが客観的に判断する材料に乏しかった[7]。SPLの導入により、12項目の評価マトリクスで好事例がスコア化されることで「これは効果的だ」と一目で分かるようになる[2]。辻井は「好事例を共有できるので、これまでの各クラブの活動を線にして面に変えることができる」と述べ、点在していた知見がリーグ全体の資産へと転換される可能性を示した[7]。客観スコアという共通言語があることで、クラブ間の学び合いが加速する構造が生まれる。

カンファレンスに登壇した日本財団の笹川順平理事長は、地域密着型のJクラブが持つ固有の強みに言及した。「Jクラブは地域に密着し、地域の問題をよく知っている。そしてその課題を解決するパッションと技術がある」と笹川は語り、SPLという仕組みを通じて「あえて競争して切磋琢磨すること」の重要性を強調した[8]。地域の気候リスク──豪雨による試合中止、猛暑でのスクール活動制限──を最前線で体感しているのはクラブの現場スタッフであり、その知見を全国規模で共有できれば、日本社会全体の気候レジリエンス向上にも寄与しうる、という視座だ[8]。

英国での準備期間中、プレミアリーグやEFL(イングリッシュ・フットボール・リーグ)のクラブ訪問では、現場担当者が具体的なROI(投資対効果)を共有する場面が頻繁に見られた。あるクラブのスタジアム運営担当者は「使い捨てプラスチック削減で年間コスト15%削減を実現した」と明かし、別のクラブは「リユースカップ導入でゴミ処理費用が大幅に減り、ファン満足度も向上した」と報告した[2]。これらは単なる美談ではなく、経営数値として評価可能なデータだ。SPLのスコアリングを通じて「どの施策が財務的にも環境的にも効果的か」が可視化されることで、現場の意思決定が格段にしやすくなる、と英国関係者は口を揃える[2]。

SPL創設者でCEOのクレア・プールは、気候変動という課題の本質を端的に表現した。「ある気候科学者が言っていました。『誰か1人が勝って誰かが負けるというものではなく、全員が勝つか、全員が負けるか』という種類の課題です」[8]。プールはこの言葉を引用し、SPLのランキングが単なる優劣を競うものではなく、リーグ全体が共に前進するための道具であることを強調した[8]。サウサンプトンFCが18位から始めてリーダー的存在へと成長した事例が象徴するように、最初の順位が低いことは失敗ではなく、改善余地の大きさを示すシグナルに過ぎない[8]。辻井が会場に向けて語ったメッセージ──「ポジティブにこの問題と向き合っていければ」──は、完璧主義を捨て、集合知で課題を乗り越える新しいリーグ文化の幕開けを告げるものだった[8]。

世界基準との対峙がもたらす「リーグ価値」の再定義

2026年8月、Jリーグは秋春制への移行という歴史的な転換点を迎える。この改革は単なるカレンダーの変更ではなく、欧州主要リーグと同じシーズンで戦うことで選手移籍市場での競争力を高め、国際的なスポーツビジネスの文脈に本格参入する意思表示だ。野々村芳和チェアマンは「世界との競争を意識したシーズンを前に、環境への取り組みも世界基準で考えていくべき」と明言し、SPL参画をその象徴として位置づけた[2]。ピッチ上の戦いだけでなく、クラブ経営の透明性や社会的責任においても、グローバルスタンダードに対峙する姿勢を鮮明にしている。

欧州では既に、環境性能が投資判断やスポンサー契約の前提条件となりつつある。プレミアリーグでは全20クラブにサステナビリティ担当者が配置され、ファンや株主、政府からの環境情報開示要求が常態化している[2]。リバプールFCは2021/22シーズンに25%だったペットボトル回収率を99%まで引き上げ、この実績がパートナー企業との信頼構築に直結した[2]。SPLへの参画は、Jクラブにとっても投資家やスポンサーに対する透明性担保の手段であり、ESG(環境・社会・ガバナンス)重視の経営姿勢を客観的に示すツールとなる。

Jリーグ執行役員の辻井隆行は、現状認識において危機感を隠さない。「2015年にパリ協定が締結され、気温上昇を1.5℃未満に抑えることで合意した。しかし状況は加速度的に悪化し、この3年間だけでも過去最高気温を次々と塗り替えている」と語り、気候変動が既に「未来の課題」ではなく「今そこにある経営リスク」であることを強調した[8]。ジェフユナイテッド市原・千葉は2024年夏の猛暑と雷雨により、わずか3カ月でサッカースクール65クラスを中止せざるを得なかった[2]。この具体的損失が、クラブ経営層に「気候問題はダイレクトに収益を脅かす」という認識を植え付けた。

SPLの仕組みは、情報のアクセシビリティにおいても画期的だ。SPL公式サイト(登録制)では各リーグの統括レポートと各クラブの具体的取り組みが閲覧でき、Jリーグも2026年秋以降、自らのサイトにランキングを転載する予定だ[1][4]。これにより、ファン・サポーター、メディア、自治体、企業といった多様なステークホルダーが、専門知識がなくても客観的な環境情報にアクセスできる。クラブが「地域の環境課題解決ハブ」として機能するには、取り組みの可視化と信頼性が不可欠であり、SPLはその基盤インフラとなる。

Jリーグが持つ影響力の大きさは、数字が物語る。年間観客動員数は約1,250万人、全60クラブのホームタウンエリアは日本の国土面積の87%をカバーする[1]。この広範なネットワークを通じて発信される環境メッセージは、単一企業や自治体の広報活動とは比較にならない波及効果を持つ。辻井執行役員は「Jリーグが実際に削減できるCO2排出量は社会全体から見れば小さいかもしれない。しかし『発信力』がある。ファンやサポーター、パートナー企業を巻き込み、社会システムそのものを変えていく力がある」と語る[2]。SPL参画は、Jリーグというプラットフォームの社会的価値を再定義し、スポーツビジネスの新たな競争軸を提示する試みなのだ。

2026年秋、最初のランキングが問いかけるもの

2026年6月頃、Jリーグは「Jリーグ気候アクションハンドブック」を発行する[3][4]。このハンドブックには、SPLの評価基準となる12項目の詳細、各項目の具体的な活動の進め方、データ収集の方法が記載され、一般にも公開される予定だ[4]。60のJクラブすべてがこのハンドブックを参照しながら準備期間を過ごし、2026年1月に正式エントリーを行う。その後、各クラブは2026年1月から6月までの半年間に実施した気候アクションのデータを英国のSPL運営組織に送付し、同年7月から9月にかけて情報収集・分析期間に入る[3]。10月に評価と順位が確定し、2026年11月、アジア初となるJリーグ版SPLランキングが公表される[3][4]。この瞬間、日本のスポーツ界で初めて「クラブの気候アクション順位表」が可視化されることになる。

ランキングが公表されれば、当然ながら「クラブ間の格差」が明らかになる。再生可能エネルギーの調達比率、使い捨てプラスチックの削減率、ファンや選手の移動に伴うCO2排出量の管理状況など、12項目それぞれでスコアが算出され、総合順位が示される[3]。だが、SPL創設者のクレア・プール氏が強調したのは「完璧主義からの離脱」だった[8]。「初年度のスコアが低いことは失敗ではなく、むしろ改善の可能性が大きいことの表れ」であり、重要なのは「順位の優劣ではなく、どこに改善余地があるか、どのクラブの実践が参考になるかを可視化し、学びの循環をつくること」だという[8]。実際、プレミアリーグのサウサンプトンは20クラブ中18位からスタートしたが、現状を直視し改善を積み重ねた結果、今やこの分野のリーダー的存在になっている[8]。Jリーグもまた、このランキングを「競争」ではなく「共有と改善の促進装置」として位置づけている[3]。

2026年秋以降、スポンサー企業、自治体、ファン・サポーターは、クラブ選択や支援判断に「環境スコア」という新たな指標を持つことになる。Jリーグの辻井隆行執行役員は「スポーツクラブの環境への貢献状況や、地域特有の環境課題に関する客観的な情報にアクセスしやすくなる」と述べている[4]。企業にとっては、ESG投資の観点からパートナーシップ先を選定する際の判断材料となり、自治体にとっては地域のカーボンニュートラル推進の協力者を評価する基準となる。ファンにとっても、自分が応援するクラブが地域社会にどのような環境貢献をしているかが可視化されることで、クラブへの愛着や誇りがより多層的なものになる可能性がある。日本財団の笹川順平理事長が語った「地域に密着し、地域の問題をよく知り、その課題を解決するパッションと技術がある」というJクラブの特性[8]が、このランキングを通じてステークホルダー全体に伝わる仕組みが整うことになる。

今後、注目すべき論点は4つある。第一に、上位にランクインするクラブの具体的施策だ。再生可能エネルギーの調達先、廃棄物削減の手法、ファンエンゲージメント施策など、実践知が共有されることで、他クラブの改善が加速する[3][8]。第二に、地方クラブと都市クラブの格差とその補完戦略である。人口規模や財政基盤が異なる中で、どのように地域資源を活かした独自の気候アクションを展開するかが問われる。第三に、ファンや選手を巻き込むコミュニケーション施策の創意工夫だ。SPLの評価12項目には「教育」「コミュニケーションとエンゲージメント」が含まれており[3]、クラブがファン・サポーターの環境意識や行動変化にどう取り組むかが評価される。第四に、アジア他リーグへの波及可能性である。Jリーグがアジア初のSPL参画リーグとして成果を示せば、Kリーグ、中国スーパーリーグ、タイリーグなど他のアジア圏プロリーグへの展開も視野に入る。2026年秋のランキング公表は、日本のスポーツビジネスにおける気候アクションの「元年」として記憶されることになるだろう。


参考文献 / Sources

http://www.sportpositiveleagues.com/news-article/nikkan-sports-j-league-joins-sport-positive-leagues-to-rank-clubs-efforts-on-climate-change-a-first-in-asia/

https://halftime-media.com/interviews/jleague-spl/

https://www.jleague.jp/climateaction/spl/

https://www.jleague.jp/sp/news/article/30781/

https://aboutj.jleague.jp/corporate/pressrelease/article/15508

https://www.nikkansports.com/soccer/news/202504220000906.html

https://www.alterna.co.jp/154884/

https://www.jleague.jp/climateaction/report_sustainability_conference_2026.html/

https://sustainablejapan.jp/2025/04/23/j-league-sport-positive-league/112845

https://www.sportpositiveleagues.com/news-article/sustainable-japan-j-league-joins-sport-positive-league-budget-allocation-to-clubs-based-on-climate-action-level/

Related

事例の関連記事

13年続く「CO2ゼロ」の仕組み ── セレッソ大阪、ヤンマー、大阪ガスが生んだ地域循環型オフセットモデルの全貌
Case Study

13年続く「CO2ゼロ」の仕組み ── セレッソ大阪、ヤンマー、大阪ガスが生んだ地域循環型オフセットモデルの全貌

2012年、セレッソ大阪はホームゲーム全試合のCO2排出を実質ゼロにする「CO2ゼロチャレンジ」を開始した。1試合あたり25〜30トン、年間約400〜500トンのCO2を、地元中小企業の省エネ設備導入で創出されたクレジットで相殺する。ヤンマーと大阪ガスが協業し、国内クレジット制度を活用したこの取り組みは、2014年に経済産業大臣賞を受賞。Jリーグ・WEリーグで唯一、13年間継続されている先駆的モデルだ。

Field & Future 編集部読了 約8分
FC東京、Jリーグ初のUNFCCC署名へ――2035年「世界水準」宣言の裏側にある経営戦略と社会実装の設計図
Case Study

FC東京、Jリーグ初のUNFCCC署名へ――2035年「世界水準」宣言の裏側にある経営戦略と社会実装の設計図

2026年2月、FC東京が発表したサステナビリティ戦略は、Jリーグ60クラブの中で初めてUNFCCC「Sports for Climate Action Framework」への署名を明言した。2035年カーボンニュートラル、資源循環100%、ネイチャーポジティブ――この3本柱を掲げる背景には、気候変動を「経営判断に組み込むべき構造的課題」と位置づける経営哲学がある。Jリーグが2025年7月に署名した同枠組みに呼応し、クラブレベルでの具体的な行動計画を示した初の事例として、スポーツビジネスにおける気候対策の社会実装モデルを読み解く。

Field & Future 編集部読了 約8分
東京ヴェルディ「GREEN RELAY PROJECT」が問う、J1クラブの気候アクション実装力
Case Study

東京ヴェルディ「GREEN RELAY PROJECT」が問う、J1クラブの気候アクション実装力

東京ヴェルディが2025年6月に始動した「GREEN RELAY PROJECT」は、試合会場でファン・サポーターから不要衣料品を回収し、専門商社・蝶理のリサイクルスキーム「B-LOOP®」を活用してサポーターグッズへ再生する取り組みだ。2025シーズンには計4回の回収で525kgを集め、さらにクラブハウスや自治体施設へと回収網を広げている。Jリーグが掲げる「気候アクション月間」に連動したこの事例から、スポーツクラブが地域・企業・ファンを巻き込んで循環型社会を実装する現実解が見えてくる。

Field & Future 編集部読了 約8分