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Jリーグ全60クラブが挑む「気候アクション順位表」—SPL参画で見える化するサステナビリティの実力

2026年1月、Jリーグはアジア初となる国際イニシアチブ「Sport Positive Leagues(SPL)」に参画。全60クラブの気候変動対策を12項目で数値化し、順位表で公開する仕組みがスタートした。3年で総額11.9億円の助成金を投じ、試合中止が5倍に急増した現実に立ち向かう。欧州4リーグに続く挑戦は、日本のスポーツビジネスに何をもたらすのか。

Field & Future 編集部読了 約8分
Jリーグ全60クラブが挑む「気候アクション順位表」—SPL参画で見える化するサステナビリティの実力

2026年2月8日、Jリーグの開幕節。大雪により3試合が中止となった。これは特異な事例ではない。2018年以降、豪雨や台風による試合中止は年平均9.57試合と、それ以前の約5倍に急増している。この現実に対し、Jリーグは2026年1月、アジア初となる国際イニシアチブ「Sport Positive Leagues(SPL)」への参画を決定した。全60クラブの気候変動対策を12項目で数値化し、「順位表」形式で公開する—欧州4リーグに続く挑戦は、総額11.9億円の助成金と年間1250万人のファンを巻き込み、日本のスポーツビジネスに新たな競争軸を生み出そうとしている。


試合中止が5倍に—Jリーグが直面する気候変動の現実

2018年以降、豪雨や台風によるJリーグ公式戦の中止は年平均9.57試合に達している。これは2017年までの年平均1.86試合と比較して約5倍の急増だ[2]。線状降水帯による記録的豪雨、勢力を保ったまま上陸する台風――かつては「異常気象」と呼ばれた事象が、もはや毎年のように繰り返される日常となった。試合中止はチケット収入の喪失だけでなく、放映権収入やスポンサー露出機会の損失、振替開催に伴う追加コストなど、クラブ経営に多面的な打撃を与える。気候変動は、もはやJリーグにとって「将来への懸念」ではなく、現在進行形の経営リスクとして立ちはだかっている。

影響は公式戦だけにとどまらない。ジェフユナイテッド千葉では、2024年6月から8月のわずか3カ月間で、65クラスものスクール活動がキャンセルを余儀なくされた[2]。夏場の「ゲリラ豪雨」や熱中症警戒アラートによる屋外活動の制限が頻発し、育成年代の子どもたちが安全にプレーできる環境が奪われている。スクール事業はクラブにとって地域との接点であり、将来のファン層を育てる重要な収益基盤だ。天候不順による活動機会の喪失は、短期的な収入減だけでなく、長期的なクラブと地域の関係性にも影を落としている。

2026年2月8日、明治安田生命百年構想リーグ(秋春制移行前の特別大会)の開幕節では、大雪により3試合が中止となった[7]。冬季の降雪リスクは、秋春制への移行を決めたJリーグにとって新たな経営課題として浮上している。開幕戦は年間でも最も注目度が高く、スポンサー露出価値も大きいタイミングだ。その週末に3試合が消えたインパクトは、単なる日程調整の問題では済まない。気候変動は夏だけでなく冬にも、予測困難なかたちでリーグ運営を揺さぶり始めている。

こうした現実を前に、Jリーグが2026年度から導入するのが、全60クラブの気候変動対応を「順位表」で可視化する国際的な枠組み「Sport Positive League(SPL)」だ[2]。1996年の発足以来、地域に根ざしたクラブ経営を掲げてきたJリーグにとって、気候変動への対応は「社会貢献」の延長ではなく、事業継続そのものに直結する喫緊の課題となっている。試合を安定的に開催し、スタジアムに人を集め、地域との絆を守る――その前提となる「気候の安定性」が、すでに失われつつある。SPL参画は、この構造的リスクに全クラブで立ち向かうための、Jリーグの宣戦布告でもある。

アジア初のSPL参画—12項目で「見える化」する気候アクション

Jリーグが2025年4月に参画を発表したSport Positive Leagues(SPL)は、英国プレミアリーグを起点に生まれた国際的なイニシアチブである[1]。創設者のクレア・プール氏は、UEFAの環境諮問委員を務める人物で、2018年にこの仕組みを立ち上げた[1]。プール氏は当時、多くのサッカークラブが環境活動を行っているにもかかわらず、その取り組みが世間に知られていない現実に着目した。彼女は各クラブに「サステナビリティの取り組みを可視化し、目標水準を高めよう」と提案し、2019年11月にBBCのニュースで取り上げられたことで大きな反響を得た[1]。BBCから「分厚いレポートは誰も読まない」と指摘され、スポーツファンに馴染みのある順位表形式に辿り着いたという経緯がある[1]。

現在、SPLにはプレミアリーグ、チャンピオンシップ(イングランド)、ブンデスリーガ(ドイツ)、リーグ・アン(フランス)が参画しており、Jリーグは世界で5番目、アジアでは初の参画となる[8]。評価の対象となるのは、再生可能エネルギー、使い捨てプラスチック削減、環境負荷の少ない移動手段など12項目にわたる[5]。各項目には独自のスコアリングシステムが適用され、エネルギー、廃棄物、交通といったカテゴリー別に加重を設けて総合点を算出する仕組みだ[5][8]。例えば「使い捨てプラスチックの完全廃止」をスタジアムなど全施設で実行していれば2ポイント、その活動をファン・サポーターと交流し促進すればボーナスポイントが加算される[1]。

Jリーグ版SPLの評価指標は、国際的基準の客観性を担保しつつ、日本の社会システムや基準に適合させる形で策定された[5]。12項目の中には、「ポリシーとコミットメント、レポーティング」として、Scope1〜3の排出量等の客観的な情報を定め公表すること、「再生可能エネルギー」として再エネ比率40%以上を目標に取り組むこと、「生物多様性」として地域コミュニティに行き渡らせることで自然と地域の生態系支援に取り組むことなどが含まれる[5]。各カテゴリー共通の論点として、「方針・ポリシー・戦略」の定義を「長期ビジョン・定量/定性の目標設定・活動計画」と設定し、全ての施設の定義を「スタジアム・クラブハウス・練習場・クラブ事務所・ショップなど」としつつ、最低要件として「スタジアム、クラブハウス、クラブ事務所」を設定している[5]。

2026年1月から正式エントリーとなるJリーグのSPLは、2026年1月から6月までの半年間を対象期間として、各クラブの気候アクションに関する情報収集と評価が行われる[5]。その後、2026年7月から9月にかけて各クラブの情報収集・分析期間を設け、10月にSport Positiveによる評価・順位の確定が行われる[5]。そして同年11月下旬に、J1からJ3まで全60クラブの中から上位20クラブのランキングとスコアが公式サイトで公開される予定だ[1][5]。2026年7月からは、評価対象期間を毎年7月から翌年6月の1年間とし、同様に毎年11月にランキングを公表するサイクルが確立される[5]。

このランキング形式について、プール氏は「スポーツファンにとって馴染み深く、強力なフックとなる」と説明する[1]。実際、プレミアリーグではSPL導入後、リバプールが2021/22シーズンに25%だったペットボトル回収率を99%まで上昇させ、以前SPLで18位だったサウサンプトンFCは悔しさを糧に今ではリーダー的存在へ成長した[1]。現在はプレミアリーグ全20クラブにサステナビリティ担当者が配置されるようになっており、順位表が生み出す競争原理が組織の変革を促した実績がある[1]。プール氏は「自分のクラブの取り組みを誇りに思うというファンの熱量は、パートナー企業にとっても魅力。サステナビリティをビジネスの武器として捉える必要がある」と強調し、SPLが単なる環境保護活動ではなく、クラブの価値向上につながる経営戦略であることを示した[1]。

総額11.9億円の助成金—クラブ間競争を促す経済インセンティブ

総額11.9億円の助成金—クラブ間競争を促す経済インセンティブ

Jリーグは今回のSPL参画に際し、日本財団の協力を得て3年間で総額11億9000万円の助成金制度を創設した[2]。2025年度は準備期間として2億4000万円を用意し、活動申請のあったクラブに均等配分する。2026年度以降は順位に応じた配分方式へと移行し、1クラブあたりの上限は年間400万円に設定される[2]。この規模の資金投入は、Jリーグが気候変動対策を単なる「社会貢献」ではなく、クラブ経営の競争力を左右する戦略課題として位置づけたことを示している。助成金の原資は全額が日本財団からの拠出であり、Jリーグ自体の予算からの持ち出しは発生しない構造となっている[7]。

順位に応じた助成金配分は、クラブ間の競争原理を巧みに利用した設計だ。SPLのスコアリングは12項目にわたり、再生可能エネルギーの導入率、廃棄物削減の実績、ファンへの環境教育の実施状況など、定量的に測定可能な指標で構成される[2]。上位20クラブの順位と取り組み内容が公式サイトで公開されるため、クラブにとっては「ピッチ外の順位表」として認知され、ブランド価値の向上につながる[7]。下位に甘んじたクラブは助成金の配分が減るだけでなく、スポンサー企業やサポーターからの評価にも影響が及ぶ可能性がある。この仕組みにより、環境投資は「コスト」から「競争力の源泉」へと認識が転換されることが期待されている[2]。

Jリーグのサステナビリティ担当である辻井隆行理事は、リーグの役割を「プラットフォーマー」と定義し、クラブ間の好事例の共有を重視する姿勢を示した[2]。「コスト削減や利益増につながるような事例を作っていきたい」と語る辻井理事の発言は、環境対策が収益改善と両立可能であることを実証する意図を示している[7]。例えば、LED照明への切り替えによる電気代削減、リユースカップ導入による廃棄物処理費の圧縮、再生可能エネルギー調達による長期的なエネルギーコストの安定化など、初期投資を伴いながらも中長期で回収可能な施策が想定される。Jリーグは2026年1月のカンファレンスで、プレミアリーグとリバプールFCの事例を参考に、必要な資材をリーグが一括購入してクラブに販売する案も提示した[7]。

助成金制度の導入により、財政基盤の脆弱なJ2・J3クラブにも環境投資の機会が生まれる。J1クラブの平均営業収入が約40億円であるのに対し、J3クラブでは1億円に満たないケースも珍しくない。年間400万円の上限設定は、J3クラブにとっては年間予算の数パーセントに相当する規模であり、太陽光パネルの設置やEV車両の導入など、単独では実現困難だった施策への着手が可能になる[2]。一方で、1月28日に開催された「サステナビリティカンファレンス2026」では、参加クラブから活動にかかるコストへの懸念の声も上がった[7]。辻井理事は「各クラブの事例に応じて柔軟に対応する」と述べ、リーグが情報の橋渡し役を担う姿勢を強調している[7]。

この助成金制度は、3年間という期限を設けることで、クラブに対して短期的な成果を求める設計となっている。2026年11月に最初の順位が公表され、翌年以降の配分額が決まるため、クラブは初年度から具体的な成果を出す必要に迫られる[7]。プレミアリーグでは2018年のSPL創設から5年で、当初導入していた順位表が不要になるほど改善が見られたとされる[7]。Jリーグも同様の軌道を描くことができれば、助成金という「呼び水」は役割を終え、クラブが自律的に環境投資を継続する段階へと移行する。総額11.9億円という投資が、日本のスポーツ界全体に波及する環境経営のモデルケースを生み出せるか、2026年秋の初回評価が最初の試金石となる。

プレミアリーグの先行事例—ブリストル・シティが示す「失敗と成功」

# プレミアリーグの先行事例—ブリストル・シティが示す「失敗と成功」

欧州のサッカー界では、気候アクションは経営判断の一部として定着しつつある。特に英国では、環境意識の高いファン・株主・政府がクラブに強い圧力をかけ、ESG(環境・社会・ガバナンス)への対応を迫っている[1]。スペインのラ・リーガでは、各クラブのESG担当者を集めて週8時間の研修を実施するなど、組織的な能力開発に投資している[2]。こうした背景から、プレミアリーグでは全20クラブにサステナビリティ担当者が配置されるに至った[1]。日本のJリーグがSPLに参画する今、欧州の先行事例から学ぶべき教訓は多い。

ブリストル・シティFCでサステナビリティ活動を17年間担当してきたピーター・スミス氏は、Jリーグのカンファレンスで率直な失敗談を語った。「初期段階では、部門ごとに孤立して活動を進めてしまい、効果が出なかった」と振り返る[7]。スタジアム運営部門が独自に環境対策を進める一方、選手やマーケティング部門との連携が欠けていたため、ファンへのメッセージも一貫性を欠いた。スミス氏は「効果を生むには、コミュニケーションと連携が不可欠」と強調し、クラブ全体で目標を共有する重要性を説いた[7]。ブリストル・シティはこの教訓を活かし、2022/23シーズンのSPLで英EFL全72クラブ中2位を獲得するまでに成長した[1]。

スミス氏が示した具体的な成功事例は、Jリーグクラブにとって示唆に富む。ブリストル・シティでは、エネルギーと水の使用削減により運営コストを大幅に圧縮しただけでなく、環境配慮型の商品に対するファンの支持を獲得した[1]。容器の価格が10ペンス(約20円)高くても、持続可能性の説明があればファンは納得して購入する。「劣悪な労働環境で作られた安価な製品は扱わない」という明確な理念を貫いた結果、世界的な大手銀行スタンダード・チャータードのような企業との新たなパートナーシップ構築につながった[1]。スミス氏は「サステナビリティは経営を圧迫するコストではない。クラブのアイデンティティを強固にし、新たな収益を生み出している」と断言する[1]。

プレミアリーグでは、認証取得が競争優位性を生む段階に入っている。リバプールFCは2023年、持続可能なイベント運営のための国際規格ISO 20121をプレミアリーグのクラブとして初めて取得した[2]。この認証は、イベントのライフサイクル全体(計画・実施・事後評価)で環境・社会・経済面の影響を管理する能力を証明するものだ。リバプールはペットボトル回収率を2021/22シーズンの25%から99%へと劇的に向上させ、数値で示せる実績を積み上げた[1]。一方、以前SPLで18位だったサウサンプトンFCは、順位表の低迷を「悔しさ」に変えて改善を重ね、現在ではリーダー的存在へと成長した[1]。SPLという「見える化」の仕組みが、クラブ間の健全な競争を促している。

欧州の事例が示すのは、気候アクションが「善意の活動」から「経営戦略」へと進化した現実だ。ブリストル・シティのスミス氏は、「今回の会合は新しい取り組みの一歩だが、数年後に振り返った時に『良かった』と思えるものになるだろう。今後は、我々の方が日本のクラブから学んでイングランドで取り入れることがあるに違いない」とJリーグへの期待を語った[7]。データ収集の難しさに悩むJクラブに対しては、「完璧なデータを待つのではなく、今あるリソースで進めることが重要だ」と実体験に基づくエールを送っている[1]。失敗を恐れず、組織横断的な連携を重視し、具体的な数値目標を掲げる—欧州の先行事例は、Jリーグが避けるべき落とし穴と目指すべき方向性を、同時に照らし出している。

年間1250万人のファンを巻き込む—「順位表」が生むエンゲージメント

Jリーグが年間に動員する観客数は延べ約1250万人に達し、J1からJ3まで全60クラブがカバーする地域は日本国土の87%を占める[1]。この圧倒的なリーチを持つプラットフォームに、SPLという「気候アクション順位表」が導入されることで、サステナビリティは一部の関心層だけの話題ではなく、週末にスタジアムへ足を運ぶファン全体の関心事へと変わる可能性がある。2026年1月28日に東京都内で開催されたサステナビリティカンファレンスには約200人が参加し、その顔ぶれはJクラブ関係者だけでなく、スポンサー企業や野球・バスケットボールなど他競技団体にも広がった[7]。業界横断での関心の高まりは、SPLがスポーツ界全体の意識変革を促す触媒となり得ることを示している。

Sport Positive創設者のクレア・プール氏は、SPLの項目の多くが「スタジアムへの移動や会場での飲食などファンの行動に関わるもの」であり、「スタジアムの所有権がない場合でも、変化への影響を及ぼすことはできる」と指摘した[7]。実際、プレミアリーグではリバプールFCがペットボトル回収率を2021/22シーズンの25%から99%まで引き上げたが、この変化の鍵を握ったのはクラブ側の施策だけでなく、ファンの協力だった。Jリーグでも、ジェフユナイテッド市原・千葉が親会社のJR東日本と連携して実施したデジタルスタンプラリーは、電車利用を促すことで公共交通機関の利用率向上につながった[1]。こうした取り組みは、ファンが「観客」から「参加者」へと変わる瞬間を生み出す。

順位表という可視化の力は、ファンの競争心と所属意識を刺激する。セレッソ大阪の宮島武志副社長は、「社員や選手全員がサステナビリティ検定を受験するなど意識改革を徹底し、現在ではスタジアムグルメでのプラスチック削減状況の見える化や、生ゴミから肥料を作って野菜を育てるなど、ファンに見える形でのアクションを展開している」と語った[1]。こうした活動が順位表で上位に評価されれば、サポーターは自らのクラブの環境活動を誇りに思い、SNSやスタジアムでの会話を通じて自発的に発信する。プール氏は「ピッチ上のパフォーマンスと同じで、1年良くても次の年に止めれば元の木阿弥になってしまう。SPLには優勝も降格もないが、正しいマインドセットを持てば、このプロジェクトを前進させて環境へより良いインパクトを与えることができる」と述べ、継続的なエンゲージメントの重要性を強調した[7]。

Jリーグのサステナビリティ担当執行役員である辻井隆行氏は、「社会全体の中で見ると、例えばJリーグ・クラブが実際に削減できるCO2排出量はごく小さいかもしれない。ただし、Jリーグには"発信力"がある」と語り、年間1250万人のファンやサポーターを通じた波及効果の大きさを指摘した[1]。実際、2026年2月の百年構想リーグ開幕節3日間では、大雪の悪天候にもかかわらず過去最多の入場者数を記録し、1試合平均24,550人が来場した[7]。この数字は、日本のスポーツファンがピッチ内外の話題に高い関心を持っていることを裏付けている。辻井氏はさらに、「社会が変わるときは大勢の人が『それ、いいよね』とメインストリームになっていくことがすごく大事。日本の強みとして、コレクティブにみんなでやっていくのが得意というのがある」と述べ、集団としての行動変容の力に期待を寄せた[7]。

カンファレンスでは、ブリストル・シティFCのサステナビリティ担当責任者ピーター・スミス氏が、「部門ごとに孤立して失敗した事例」を紹介し、「コミュニケーションと連携が不可欠」と警鐘を鳴らした[7]。一方で同氏は、「今回の会合は新しい取り組みの一歩だが、数年後に振り返った時に『良かった』と思えるものになるだろう。今後は、我々の方が日本のクラブから学んでイングランドで取り入れることがあるに違いない」とも述べ、Jリーグの取り組みに期待を示した[7]。プール氏も、「Jリーグのリーダーシップで、5年後にはSPLが不要になるぐらい、共通認識が浸透することを望んでいる」と語った[7]。ファンを巻き込んだ気候アクションの可視化は、単なる環境対策ではなく、スポーツ文化そのものを持続可能なものへと進化させる試みといえる。

What's Next—「グリーンウォッシュ」を超える、データ駆動型の未来

# What's Next—「グリーンウォッシュ」を超える、データ駆動型の未来

SPLが持つ最大の意義は、サステナビリティを「主観的な善意」から「客観的な評価指標」へと転換させる点にある。欧州では近年、環境への配慮を装いながら実態が伴わない「グリーンウォッシュ」への批判が強まっており、スポーツ界も例外ではない[1]。イングランドでは、ファンや株主、政府が各クラブに対して環境性や社会性を強く求めるキャンペーンを頻繁に展開し、プレミアリーグ全20クラブにサステナビリティ担当者が配置されるに至った[1]。SPLの12項目によるスコアリングシステムは、こうした要求に応える「証拠」として機能する。再生可能エネルギーの利用率、使い捨てプラスチックの削減実績、移動に伴うCO2排出量の管理といった具体的データを収集・公開することで、クラブは「何を、どれだけ実行したか」を定量的に示すことができる[2]。これにより、単なる理念表明やイメージ戦略ではなく、実効性を伴う気候アクションが促される構造が生まれている。

この仕組みは、クラブ経営にも直接的な経済効果をもたらす。野々村芳和チェアマンは「社会問題や環境に向き合うことが企業との関係を深め、新しいパートナーシップ構築につながる」と明言し、サステナビリティが単なるコストではなく、企業価値を高める戦略要素であることを強調した[1]。実際、プレミアリーグのブリストル・シティFCでは、環境配慮を打ち出したことで世界的な大手銀行スタンダード・チャータードとのパートナーシップを獲得している[1]。Jリーグも2025年度から3年間で総額11.9億円の助成金を用意し、SPLでの順位を参考に分配配分を決める方針を示した[2]。助成金という経済インセンティブと、順位表による可視化が組み合わさることで、クラブ間の「ポジティブな競争」が生まれ、気候アクションが経営戦略の中核に据えられる素地が整いつつある。

Jリーグは2030年までにリーグ全体のCO2排出量を50%削減する目標を掲げている[2]。各クラブが単体で削減できる量は社会全体から見れば限定的かもしれないが、Jリーグ執行役員の辻井隆行氏が指摘するように、リーグには「年間1250万人のファンやサポーターに届く発信力」がある[1]。この発信力を活用し、SPLの順位表を通じてクラブの取り組みを可視化することで、ファンは自らが応援するクラブの気候アクションを「自分事」として受け止めるようになる。ブリストル・シティFCでは、環境に配慮した容器を使用したフードが多少高価でも、ファンは「正当な理由」として納得し購入する文化が根付いた[1]。Jリーグでも同様の文化が醸成されれば、クラブと地域、企業、ファンが一体となった気候変動対応のエコシステムが構築される可能性がある。

データ駆動型のアプローチは、「活動を点で終わらせない」ための鍵でもある[2]。辻井氏は「好事例を共有できるので、これまでの各クラブの活動を線にして面に変えることができる」と述べ、SPLによる横展開の効果を期待する[2]。例えば、あるクラブが使い捨てプラスチックを完全廃止し高得点を獲得すれば、その手法が他クラブにも波及し、リーグ全体の水準が引き上げられる。セレッソ大阪では社員や選手全員がサステナビリティ検定を受験し、スタジアムグルメでのプラスチック削減状況を見える化している[1]。ジェフ千葉は昨夏、猛暑や雷雨により3カ月で65クラスのサッカースクールが中止となり、気候問題が経営に直結することを痛感した[1]。こうした個別事例がSPLを通じて共有されることで、各クラブは「何が効果的か」を学び、迅速に実行に移すことができる。

SPLの順位表が公開される2026年10月以降、Jリーグのサステナビリティ競争は新たなフェーズに入る。初回は上位20クラブが発表される予定だが[1]、この順位は単なる「名誉」ではなく、助成金の配分や企業パートナーシップの獲得、ファンのエンゲージメント向上といった具体的な経営成果に直結する。Sport Positive創設者のクレア・プール氏は「サステナビリティをビジネスの武器として捉える必要がある」と強調する[1]。Jリーグが目指すのは、善意の押し付けではなく、データに基づく客観的評価と経済合理性が両立した、持続可能なスポーツビジネスモデルである。この挑戦が成功すれば、世界のスポーツリーグにとって「アジア発」の新しいスタンダードとなる可能性を秘めている。


参考文献 / Sources

https://halftime-media.com/interviews/jleague-spl/

https://www.alterna.co.jp/154884/

https://aboutj.jleague.jp/seasonreview2025/en/sustainability/s_1/

https://www.nikkansports.com/soccer/news/202504220000906.html

https://www.jleague.jp/climateaction/spl/

https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202505310160

https://www.tv-tokyo.co.jp/sports/smp/articles/2026/02/041229.html

https://www.football-zone.net/archives/589452

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