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F1が証明する100%サステナブル燃料の現実性──2026年開幕が自動車産業に投げかける3つの問い

2026年3月6日、F1は100%サステナブル燃料で走る新時代を迎えた。化石燃料ゼロでも速度を犠牲にしない「ドロップイン燃料」は、18億台の内燃機関車が残る2030年の現実解となるか。燃料メーカーの開発競争、認証プロセスの複雑化、エネルギー密度を巡る技術戦争──。F1という実験場で試される持続可能燃料が、乗用車・航空・海運に波及する道筋を、ビジネスの論理で読み解く。

Field & Future 編集部読了 約8分
F1が証明する100%サステナブル燃料の現実性──2026年開幕が自動車産業に投げかける3つの問い

2026年3月6日、オーストラリアGPで開幕したF1世界選手権は、100%サステナブル燃料で走る史上初のシーズンとなった。化石燃料を一切含まない「先進的持続可能燃料」は、大気中CO2回収や都市廃棄物から生成され、既存エンジンに改造不要で使える。F1は2030年ネットゼロ目標に向け既に26%のCO2削減を達成したが、この燃料転換の意味はサーキットを超える。2030年時点で路上を走る18億台の車両のうち電動車はわずか8%──残り92%の内燃機関車をどう脱炭素化するか。F1という実験場での挑戦が、自動車・航空・海運の未来を左右する。


開幕直前まで続いた認証レース──製造プロセス全体が審査対象に

2026年3月5日、メルセデスPUユニットに燃料を供給するペトロナスは、F1開幕戦オーストラリアGPの前日という土壇場のタイミングで、ようやく持続可能燃料のホモロゲーション(認証)を取得した[6]。この認証取得の遅れは、F1史上例を見ない新たな審査プロセスが導入されたことに起因する。従来、化石燃料の認証はFIA傘下の英国研究所でサンプルを分析するだけで完了し、約2〜3週間で結果が出ていた[3]。しかし2026年シーズンから、燃料そのものの成分だけでなく、製造プロセス全体──原料調達から生産工程、サプライチェーンに関与するすべてのパートナー企業の認証まで──が審査対象となり、数カ月規模の検査が必要になった[3]。ペトロナスはメルセデス、マクラーレン、ウイリアムズ、アルピーヌの4チームに燃料を供給するため、認証が間に合わなければ開幕戦で代替燃料を使用せざるを得ない事態も懸念されていた[6]。

認証プロセスの実務は、FIAから英国企業Zemoに外部委託された[3]。Zemoの担当者は製造施設を直接訪問し、各工程がFIA技術規則で定められた基準を満たしているかを現地で確認する。さらに、燃料の構成要素ひとつひとつについて、供給網に関与するサプライヤーの認証書類も精査される[6]。たとえ燃料自体が技術仕様に適合していても、サプライチェーン上の一社でも認証が欠けていれば、最終的なホモロゲーションは下りない仕組みだ[6]。この新制度は、F1が掲げる「2030年カーボンニュートラル」目標の信頼性を担保するための措置だが、初年度ということもあり、燃料メーカー各社は想定以上の書類準備と現地対応に追われることになった。

100%持続可能燃料の原料には、複数の選択肢が存在する。FIAが定める必須条件は、食料と競合しない資源の利用である[3]。具体的には、ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)による大気中のCO2回収、都市廃棄物、非食用植物、農業残渣などが認められている[3]。DACは大気中のCO2を直接吸収して液化・固定化する技術で、理論上は最もカーボンニュートラル性が高いとされる一方、製造コストとエネルギー投入量が課題となる。都市廃棄物や農業残渣を原料とするバイオマス燃料は、既存のインフラを活用できる利点がある反面、収集・輸送・前処理の過程での排出量管理が審査の焦点となる。各PUメーカーは、パートナー燃料メーカーとともに異なる原料戦略を選択しており、技術開発の方向性にも差が生まれ始めている。

ペトロナスのホモロゲーション取得は、開幕直前まで結果が不透明だったことから、F1パドック内で代替燃料シナリオの議論を引き起こした[6]。仮に認証が間に合わなかった場合、事前承認済みの成分のみで構成した「暫定燃料」での出走が認められる可能性があったが、パフォーマンス面での不利は避けられない。メルセデスPUを搭載する4チームが揃って競争力を失えば、選手権の公平性にも影響が及ぶ。結果的にペトロナスは3月5日に認証を取得し、事なきを得たが、この一件はF1が新時代の技術規制において、単なる性能競争ではなく、製造プロセスの透明性とサステナビリティの証明を同時に求める方向へ舵を切ったことを象徴している[6]。他の燃料サプライヤー──エクソン・モービル(レッドブル系)、シェル(フェラーリPU系)、アラムコ(ホンダPU)、BP/カストロール(アウディ)──も同様の審査を経ており、2026年シーズンは燃料開発競争が新たな次元に突入した年として記憶されることになるだろう[3]。

「ドロップイン燃料」という設計思想──エンジン改造不要で18億台に適用可能

F1が2026年に導入する持続可能燃料の最も重要な特性は、「ドロップイン燃料」として設計されている点にある。ドロップイン燃料とは、既存の内燃機関に対してエンジン側の改造を一切必要とせず、従来の化石燃料と置き換えて使用できる燃料を指す[8]。この設計思想は、単に新世代F1マシンのための実験的な燃料開発ではなく、世界中に存在する膨大な数の内燃機関車両への適用を前提としたものだ。実際、F1では過去に歴史的なマシンを用いたサステナブル燃料のデモ走行が実施されており、特別な改造なしに既存エンジンで稼働することが実証済みである[8]。この互換性こそが、F1の燃料技術開発を実験室レベルの研究から現実世界の脱炭素ソリューションへと昇華させる鍵となる。

この設計思想の背景には、電動化だけでは対処しきれない世界の輸送インフラの現実がある。F1の技術責任者パット・シモンズは、2030年時点で路上を走る18億台の車両のうち、完全電動車が占める割合はわずか8%に留まるとの予測を示している[10]。つまり、残り92%に相当する16億台以上の内燃機関車両が、2030年以降も稼働し続けることになる。これらの車両に対して「新しいエンジンに買い替えよ」と要求するのは非現実的だ。ドロップイン燃料は、既存のインフラと車両ストックを活かしながら脱炭素化を進める、実用性の高いアプローチとして位置づけられている[10]。

さらに重要なのは、この燃料技術が自動車の枠を超えた産業横断的なインパクトを持つ点である。トラック、列車、航空機、船舶といった重量物輸送や長距離輸送の分野では、現在の電池技術ではエネルギー密度や航続距離の制約から、内燃機関が引き続き重要な役割を果たす[10]。シモンズは「我々が洗練し、より効率的で主流にする技術は、トラック、列車、航空機の燃料を生産するのと全く同じ技術だ。たとえそれらの燃料が若干異なるものであってもだ」と述べている[10]。F1とアラムコの共同研究では、すでに39種類のサロゲートブレンド(代替燃料混合物)がテストされており[10]、異なる組成が燃焼特性に与える影響についての知見が蓄積されている。

ExxonMobilのグローバル・モータースポーツ技術マネージャーであるマッティ・アレマイェフは、この燃料が持つエネルギー密度の高さを示す具体例として「この燃料1タンクで、平均的な一戸建て住宅を3〜4週間稼働させることができる」と説明している[9]。化石燃料に匹敵するエネルギー密度を維持しながら、原料は第二世代廃棄物、つまり「廃棄物から廃棄物をかき集めた」もので構成される[9]。食料と競合しない森林廃棄物、家畜の糞尿、スイッチグラスといった非食用バイオマスや、大気中から回収されたCO2を合成して分子レベルで最適化されている[8][9]。こうした原料調達から製造プロセス全体で、温室効果ガス排出量を65%以上削減することがFIA規定で義務付けられており[9]、独立機関による認証が必須となっている[8]。この厳格な認証プロセスにより、「サステナブル」という言葉が単なるマーケティング用語ではなく、測定可能な環境性能として担保される仕組みが構築されている。

エネルギー密度を巡る技術開発競争──分子レベルの最適化がパフォーマンスを分ける

2026年規定がもたらす最大の転換点は、燃料流量制限の基準が「質量(重量)」から「エネルギー量」へと変わることにある。従来のように1時間あたり何キログラムという物理的な重さで制限するのではなく、エネルギー流量の上限を3000MJ/h(メガジュール毎時)として設定する[12]。この変更は単なる計測方法の見直しにとどまらない。各チームが使用する持続可能燃料のエネルギー密度が事前に計測され、同じエネルギー量を得るために必要な燃料の重量が燃料ごとに異なることを意味するからだ。つまり、より高いエネルギー密度を持つ燃料を開発できたチームは、同じ3000MJ/hという制限の中で、より少ない重量の燃料でレースを戦えるようになる[12]。

この新たな規定が、燃料開発を分子レベルの競争へと押し上げている。持続可能燃料は化石燃料を一切使用できないため、化学組成が従来のガソリンよりもはるかに複雑になる[12]。燃料メーカー各社は、どの分子を使用できるのかを理解するために広範な研究を実施しており、最適な組み合わせを見つけるために100万回にもおよぶシミュレーションを実施しているとされる[12]。もはや既存製品の最適化ではなく、分子レベルから全く新しい燃料を作り出すことが目標となっている。添加剤の研究開発もイノベーションの主戦場だ。FIAは持続不可能な素材由来の添加剤の使用を認めているものの、不適切に燃焼特性を変化させて「隠れた性能向上」をもたらさない範囲に厳しく限定している[12]。一方、持続可能な添加剤については、認証を受けサプライチェーン全体で追跡管理されていれば、持続不可能な添加剤に課される制限は適用されない[12]。

この開発競争が生み出すコストは桁違いだ。燃料1リットルあたりの製造コストは約250ユーロ(約4万6000円)に達すると見込まれており[12]、従来のレーシング燃料と比較しても飛躍的に高額になる。この価格には、燃料そのものの原価だけでなく、原料調達からライフサイクル全体における炭素排出量に至るまでFIAによって監視・認証される完全に「グリーン」なサプライチェーンを構築するコストが含まれる[12]。燃料メーカーは安定性、耐ノック性、燃焼品質を向上させるための先進的で持続可能な分子の開発に注力しており、特定分野における高度な専門知識を持つ外部企業との提携も模索している[12]。すべての素材が持続可能性基準を満たし、入手可能性が保証され、材料との適合性も確保されなければならないという複雑な制約の中で、技術革新が進められている。

エネルギー密度の向上が直接的に競争力へと結びつくのは、マシンの軽量化という側面においてである。もし燃料の質量あたりのエネルギー量を増やすことができれば、レースを戦う上でマシンに搭載する燃料の量を削減できる[12]。2026年シーズンに向けて多くのチームが車両重量を最低重量規定付近まで軽量化することに苦労していると言われる中、この利点は決して見逃せない[12]。化石燃料と完全に同等のエネルギー密度を初年度から達成することは困難と見られるが[4]、2026年のパワーユニット(PU)では回生電力が全出力の約50%を占めるため、燃料性能差がマシン全体のパフォーマンスに与える影響は一定程度限定的になる可能性もある。

しかしそれでも、燃料開発における技術格差は新たな競争優位性の源泉となりうる。2014年から2025年まで12年間にわたって成熟してきたターボハイブリッド世代の燃料開発と異なり、2026年は全チームがゼロからのスタートとなる[12]。分子レベルでの最適化という新たな開発戦線において、どの燃料サプライヤーが先行するかは未知数だ。燃料タンクの小型化はマシンの重心位置や空力設計にも影響を及ぼすため、わずかなエネルギー密度の差が、シーズンを通じた競争力の差として現れる可能性がある。各陣営がどのような燃料を使用するかは現時点ではベールに包まれているが[4]、開幕後に次第に明らかになる技術的選択の違いが、2026年シーズンの勢力図を大きく左右することになるだろう。

F1のカーボンニュートラル戦略における位置づけ──マシン以外の領域も同時進行

F1は2030年ネットゼロ目標を掲げているが、その達成経路において100%サステナブル燃料は「マシン排出」という一部分に過ぎない。実際、2024年末時点でF1は2018年比26%(SAF含む)のCO2削減を達成したが、この数字は持続可能航空燃料、物流改革、工場の再エネ化など複数施策を統合した成果である[5]。同期間にレース数は21戦から24戦へ増加し、観客数は400万人から650万人に拡大しており、変革を実施しなければ排出量は10%増加していたと試算されている[5]。つまりF1は事業規模を拡大しながら排出を削減するという、多くの成長産業が直面する課題に正面から取り組んでいる。

マシン以外の領域で最も劇的な変化が起きたのは「工場・施設」部門だ。F1とチームの拠点は2018年比で34,000トンCO2e以上、率にして59%の削減を達成した[5]。これは再生可能エネルギーへの移行を組織的に推進した結果であり、単年の施策ではなく複数年にわたる設備投資と電力契約の見直しが背景にある。さらに移動に伴う排出も約20,000トンCO2e、25%削減されており、リモート中継設備の拡充とチームによるSAF投資が寄与した[5]。物流部門では新型貨物コンテナ導入により777型機での効率輸送を実現し、欧州域内ではバイオ燃料トラックを拡大することで6,438トンCO2e、9%の削減を果たした[5]。

注目すべきは、持続可能燃料がマシンだけでなくサポート機器全体に導入されている点だ。チームが使用する発電機、フォークリフト、物流トラックにも既に同種の燃料が供給されており、サーキット内外の機材が段階的に脱化石燃料化されている[5]。これはドロップイン燃料という設計思想の実用性を示す重要な事例である。既存のディーゼル機器を改造せずに燃料を切り替えるだけで排出削減が可能となるため、設備更新サイクルを待たずに即座に対策を講じることができる。F1の現場では、こうした「見えない部分」の変革が着実に積み上げられている。

こうした包括的アプローチは自動車産業全体に波及しつつある。ベントレーモーターズは2025年、過去最低のフリートCO2排出量を達成し、ライフサイクル分析を製品設計およびサプライヤー選定の意思決定に統合したと発表した[11]。同社は電動化と並行して、持続可能航空燃料(SAF)を活用した物流強化、ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)の取り組み拡大、eFuel開発推進など、車両のライフサイクル全体における排出削減に取り組んでいる[11]。これはF1が実践する「パワートレイン単体ではなく事業全体で排出を管理する」戦略と構造的に一致しており、高級車メーカーにとってF1の取り組みは技術実証の場であると同時にベンチマークとして機能している。

F1のカーボンニュートラル戦略が示すのは、単一技術への依存ではなく、複数領域での同時進行による総合的削減という現実解である。2026年にマシンが100%サステナブル燃料で走り始めたとしても、それは全体排出の一部に過ぎず、真の成否は物流・施設・移動・イベント運営といった周辺領域でどれだけ削減を積み上げられるかにかかっている。F1が2018年以降に達成した26%削減は、技術革新だけでなく運用改善、契約見直し、設備更新という地道な努力の集積であり、その知見はスポーツ興行を超えて製造業・物流業・エネルギー産業全体に適用可能な実務モデルとなりつつある。

2030年以降のエンジン規定論争──持続可能燃料が中心軸に

# 2030年以降のエンジン規定論争──持続可能燃料が中心軸に

F1 CEOのステファノ・ドメニカリは、2026年内に次期パワーユニット(PU)規定の方向性を決定する必要があると明言している。「時間が過ぎていくのは早いから、あまり無駄にしてはいけない。窮地に陥らないよう、十分な柔軟性を持って、できるだけ早く決断を下す必要がある」と同氏はmotorsport.comに対して述べ、「これは今年中には解決しなければいけない課題だ」と期限を区切った[1]。2026年規定の策定が既に2021年時点で開始されていたことを考えれば、2030年以降の規定を視野に入れた議論を今から始めることは決して早すぎない[1]。そしてドメニカリが繰り返し強調するのは、「個人的には、将来は持続可能燃料が中心になるだろうと確信している」という技術的方向性である[1]。この発言は、F1が単に環境対応を掲げるだけでなく、内燃機関の未来像そのものを再定義しようとしていることを示している。

議論の焦点は、エンジンの気筒数増加と電動化比率の見直しにある。F1パドックでは「エンジンの気筒数を増やし、出力における電気が占める割合を減らすのが、最も有力な方向性である」と言われている[1]。現行の2026年規定では、V6ターボハイブリッドの電動部分が大幅に強化され、バッテリーの搭載がマシン重量増加の一因となった。ドメニカリは「現状ではマシンは非常に重い。バッテリーが導入されたことで、マシンの設計において考慮すべき点が数多く生じた」と課題を認め、「大幅な軽量化が可能になり、より軽量で小型のクルマで、限界まで攻めることができる、純粋なレースが実現する」という将来像を描いている[1]。持続可能燃料が100%導入された現在、内燃機関の出力比率を高めてもカーボンニュートラル目標との整合性は保たれるため、技術的制約が大幅に緩和された形だ。

自動車産業全体の潮流変化が、F1の技術方向性を後押ししている。ドメニカリは「かつて自動車産業は、一気に電動化への舵を切っていたが、近年ではその傾向が薄まりつつあり、ハイブリッドエンジンが将来の自動車の方向性として有効なのではないかと言われ始めている」と指摘する[1]。欧州では2025年以降、複数の自動車メーカーがEV専業戦略を見直し、内燃ハイブリッドへの投資を再開している。こうした状況下で、F1が持続可能燃料と高効率ハイブリッドを組み合わせた技術開発を継続することは、市販車開発の指針として再評価されつつある。実際、2026年規定は「アウディやフォードのF1参入を促し、ホンダのF1復帰を後押しした」実績がある[1][7]。メーカーにとってF1は、もはや単なるマーケティングプラットフォームではなく、次世代パワートレインの実証実験場としての価値を取り戻しつつある。

しかし規定変更の道のりは政治的に複雑だ。現行のガバナンス規定では「レギュレーションを変えるにはPUメーカーの過半数の賛成が必要」であり[1][7]、既存メーカーが2026年規定に対して行った「多大な投資」を尊重する必要がある[1]。ドメニカリは「現時点でF1に投資してくれるメーカーが存在することは、信じられないほど素晴らしいことで、最大限の敬意を払うに値すると思う」と述べ、拙速な変更を否定している[1]。一方でFIA会長のモハメド・ベン・スレイエムは「F1が将来的に、もっとシンプルで安価なPUを使うシリーズにすべきだ」と公に発言し、V8エンジンへの回帰を含む選択肢を検討していた[1][7]。この対立は2025年の議論で一旦先送りされたが、「現在のガバナンスに関するレギュレーションは、2030年限りで期限切れとなる」ため[1]、交渉の主導権をめぐる攻防が再燃する可能性がある。

鍵を握るのは、持続可能燃料技術への継続投資が優先されるかどうかだ。ドメニカリは「最終的な提案はFIAが行なうべきだが、強力なエンジンと電動化のバランスは、これまでとは異なる形になるだろう」と述べ、FIAとの協議を前提としつつも、持続可能燃料を中心軸に据える姿勢を崩していない[1]。2026年規定で実証された100%サステナブル燃料の技術が、2030年以降も発展し続けるには、メーカー各社が投資回収の見通しを持てる長期的な規定安定性が不可欠となる。F1が「シンプルで安価」な方向に舵を切るのか、それとも「持続可能燃料×高効率ハイブリッド」という技術的先進性を追求し続けるのか。この選択は、世界18億台の内燃機関車が辿る未来を占う試金石となる。

実験場から実装へ──問われるのはスケールと経済性

F1が2026年に100%サステナブル燃料へ移行する意義は、技術的達成そのものよりも、その先にある産業全体への波及効果にある。現時点で持続可能燃料の製造プロセスはエネルギー集約的であり、コストも従来燃料の数倍に及ぶとされる。しかしF1の燃料供給を担うExxonMobilやAramcoといった石油メジャーは、2026年規定で義務付けられた「サプライチェーン全体で65%以上の温室効果ガス削減」という基準を満たすため、再生可能エネルギーによる製造プロセスの構築を進めてきた[9][10]。この制約は一見コスト増要因に見えるが、実は生産規模拡大による効率改善と学習曲線効果を引き出す装置として機能する。F1という限定市場で技術を磨き、量産化への道筋をつける──これは太陽光パネルやリチウムイオン電池が辿った軌跡と同じである。

F1が「走る実験場」として果たす役割は、技術実証だけにとどまらない。2024年時点で年間650万人の観客を動員し、全世界で8.26億人のファンベースを持つこのスポーツは[5]、環境技術の社会的受容性を測る巨大なショーケースでもある。毎戦ごとに300km/h超で疾走するマシンが「第二世代廃棄物由来の燃料」で駆動する光景は、「サステナブル=低性能」という固定観念を覆す象徴的メッセージとなる。ExxonMobilの技術責任者マッティ・アレマイェフは「1タンク分の燃料で一般的な戸建て住宅を3~4週間稼働できるエネルギー密度を持つ」と説明しており[9]、この具体的な比較が一般消費者の理解を促す。航空燃料や海運、重量物輸送といった「電動化が困難な領域」へのドロップイン燃料展開は、F1での成功実証が前提条件になると見られている。

技術的実現性の先にある最大のハードルは、スケールと経済性の両立だ。F1のテクニカルディレクターを務めたパット・シモンズは、Aramcoとの共同研究で39種類の代替燃料ブレンドをテストし、「トラック、列車、航空機向け燃料も同じ製造技術で生産可能」と指摘する[10]。しかし2030年時点で全世界に存在する18億台の車両のうち、完全電動化されるのはわずか8%に過ぎないという試算がある[10]。残り16億台超の内燃機関車をどう脱炭素化するか──この問いに対し、F1は「エンジン改造不要のドロップイン燃料」という解を提示している。問題はその燃料を、年間数億リットル規模でどう供給するかである。現状F1全24戦で消費される燃料は約20万リットル程度に過ぎず、民生市場への展開には製造能力で4桁以上の拡大が必要になる。

ここで問われるのは、各産業セクターの戦略的選択である。自動車メーカーは電動化一辺倒から「マルチパスウェイ戦略」へ舵を切り始めており、商用車や新興国市場では内燃機関の延命が現実的選択肢として再評価されている。物流・運輸業界は既存車両資産の活用と脱炭素化を両立させる手段として、ドロップイン燃料への関心を高めている。エネルギー企業は再エネ電力の余剰吸収先として、e-fuelやバイオ燃料の製造設備投資を検討し始めた。F1が2026年開幕戦オーストラリアGPで6~10分間のレースで証明するのは[9]、単なる技術的可能性ではない。それは産業全体に「電動化以外の脱炭素シナリオ」という選択肢を提示し、各プレイヤーに「あなたの業界はこの燃料革命にどう向き合うか」という問いを投げかける行為なのである。その答えが2030年までの産業地図を書き換える。


参考文献 / Sources

https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-needs-to-decide-on-the-next-engine-regulations-this-year-stefano-domenicali/10813072/

https://texasdiamondgarage.com/what-fuel-do-f1-cars-use/

https://jp.motorsport.com/f1/news/petronas-in-race-against-time-to-homologate-f1-2026-fuel/10798477/

https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-2026-what-is-sustainable-fuel/10787875/

https://corp.formula1.com/wp-content/uploads/2025/08/F1-Sustainability-Update.pdf

https://jp.motorsport.com/f1/news/fia-approves-petronas-sustainable-fuels-for-mercedes-f1-power-units/10802051/

https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/jp_motorsport/sports/jp_motorsport-2026041744781?fm=latestnews

https://f1-gate.com/f1car/f1_92351.html

https://www.skysports.com/f1/news/12433/13497274/f1-rule-changes-2026-explaining-the-move-to-advanced-sustainable-fuel-and-what-it-means-for-the-all-new-cars

https://www.espn.com/f1/story/_/id/34298981/f1-track-use-100-sustainable-fuels-2026-brawn

https://www.jiji.com/jc/article?g=prt&k=000000279.000082456

https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-2026-sustainable-fuel-development-wars/10789854/

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