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再エネ96%・Scope 1で89%減──リバプールFC「The Red Way」が示す、世界トップクラブのネットゼロ・ロードマップ

プレミアリーグの強豪リバプールFCが、サステナビリティ戦略「The Red Way」で再エネ96%・Scope 1排出89%削減を達成。2040年ネットゼロ、SAFでの遠征フライト100%脱炭素、DACクレジットによる商品カーボンニュートラル化──Jリーグが2026年からSPLスコアリングを開始した今、世界トップクラブの軌跡をベンチマークとして読み解く。

Field & Future 編集部読了 約5分
再エネ96%・Scope 1で89%減──リバプールFC「The Red Way」が示す、世界トップクラブのネットゼロ・ロードマップ

プレミアリーグの強豪リバプールFCが、サステナビリティ戦略「The Red Way」で示した到達点が業界の注目を集めている。クラブ施設の電力は96%が再生可能エネルギーまたは低炭素電源、Scope 1(自社直接排出)はベースライン比で89%削減、2040年ネットゼロへ向けた中間目標も射程圏内に入った。Jリーグが2026年からSPL(Sport Positive Leagues)スコアリングを全60クラブで開始した今、リバプールが描く軌跡は「世界トップクラブの脱炭素はここまで来ている」というベンチマークとして無視できない水準にある。

「The Red Way」5年目──96%再エネという到達点

リバプールFCがサステナビリティ戦略「The Red Way」を発表したのは2021年。Anfield(本拠地スタジアム)を含むクラブ全施設のエネルギー、廃棄物、サプライチェーン、ファンエンゲージメントまで横断する包括的フレームワークだ。最新のRed Way Report 2024-25では、その到達点が数字で示された。

2023/24シーズン、クラブ施設で使用するエネルギーの96%を再生可能エネルギーまたは低炭素電源から調達。屋内型のオンサイト太陽光発電と、PPA(電力購入契約)を組み合わせたハイブリッド調達が骨格になっている。前シーズン比で炭素排出量は12.5%削減、2019/20年度ベースライン比では15%削減を達成した。

Scope 1で89%削減──「クラブ施設の脱炭素」はほぼ完了

特筆すべきはScope 1排出(クラブが直接排出する温室効果ガス、主に化石燃料の燃焼による)の削減幅だ。2019/20ベースライン比で89%削減──業界紙edieもこの数字を「セクター屈指の進捗」と評価している。クラブ施設の暖房・調理・車両など、自社の燃料燃焼に由来する排出は事実上ほぼゼロに近い水準にまで圧縮された。

言い換えれば、リバプールにとって脱炭素戦略の主戦場はすでに「自社施設」ではない。残る排出のほとんどは、ファンの移動、選手・スタッフの遠征フライト、グッズ・飲食物の調達といった、自社の外側=Scope 3にある。ここに踏み込めるかどうかが、これからの本当の競争領域だ。

Scope 3への踏み込み──SAFと「DACクレジット」の本気度

リバプールのScope 3戦略は、いま2つの方向で具体化している。1つは「持続可能な航空燃料(SAF)」への投資。クラブは2023/24シーズン、国内遠征フライトのカーボン排出を100%、SAFへの投資によってオフセットしたと報告している。プレミアリーグやFAカップで頻発する遠征移動を、燃料そのものの脱炭素で攻めるアプローチだ。

もう1つが、米Occidental傘下の1PointFiveとのパートナーシップだ。1PointFiveが手がけるDAC(Direct Air Capture:大気中のCO2を直接回収する技術)からのカーボン除去クレジットを購入し、グッズ・商品の製造・流通に伴うカーボンフットプリントをオフセットする仕組みを構築した。2030年までにマーチャンダイジングのカーボンニュートラル化を達成する計画で、サッカークラブとしては世界初のDAC活用事例とされる。

ファンが買うユニフォームやマフラー1点ごとに、大気から物理的にCO2が回収されている──ここまで来ると、もはや単なる環境対策ではない。クラブのブランド価値設計、商品設計、ファン体験設計の中核に「気候」が組み込まれている。

Jリーグへの示唆──SPL元年、ベンチマークはどこにあるか

Jリーグは2026年から、SPL(Sport Positive Leagues)の枠組みで全60クラブの気候変動対応を12項目でスコア化し、11月に結果を公表する予定だ。アジア初の正式参画であり、補助金最大400万円/クラブのインセンティブも用意されている。だが現時点で、Jクラブのエネルギー転換は「再エネ100%化を関連施設で達成」(清水エスパルス)、「スタジアム電力100%再エネ化で年932tCO2削減」(千葉ロッテ)といった事例が先行している段階にある。

リバプールFCの到達点と比較すると、見えてくるのは2つの差だ。第一に、施設エネルギーの脱炭素は「100%再エネ調達」だけでは終わらないという事実。リバプールは96%調達からさらに踏み込み、Scope 1の燃料燃焼排出そのものを89%削減している。第二に、Scope 3──ファン移動、サプライチェーン、商品の製造排出までを戦略の中核に据える視点。Jリーグでこの領域に明示的に踏み込んでいるクラブは、まだ少ない。

SPLスコアリングが始まる2026年は、「再エネ転換した/していない」だけで評価される最後の年かもしれない。次に問われるのは、Scope 3のどこに、どこまで踏み込めるかだ。世界トップの到達点を知ることでしか、自クラブの現在地は測れない。

「気候戦略を持っているか」がクラブ価値を分ける時代へ

リバプールFCの「The Red Way」は、英国・国際的なサステナビリティアワードを複数受賞している。重要なのは、これがCSR的な慈善活動ではなく、クラブのスポンサーシップ、商品開発、ファンエンゲージメント、施設投資の意思決定に直接組み込まれていることだ。気候戦略を持つことが、クラブのブランド価値と収益機会の両方を支えている。

Jリーグでも、SPLスコアリングの公表が始まれば、クラブの環境スコアはスポンサー選定、ファン獲得、補助金獲得の場面で次第に重みを増していくだろう。「環境への取り組み」が美談で済む時代は終わり、「クラブ経営の競争力」として測られる時代が始まっている。リバプールが先頭を走る景色は、Jリーグ全60クラブにとって他人事ではない。

出典:The Red Way Report 2024-25(Liverpool FC公式)、edie『Liverpool FC celebrates 89% reduction in Scope 1 emissions』、Sustainability Magazine、ESG Today、Carbon Credits、Jリーグ公式発表(2026年SPLスコアリング導入)

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