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球場が街になる──エスコンフィールドHOKKAIDOがDBJ Green Building 5つ星で示した、ボールパーク型まちづくりの設計図

32ヘクタール・600億円・DBJ Green Building 5つ星・サステナビリティボンド100億円。エスコンフィールドHOKKAIDOとFビレッジが示す『箱から街へ』のスポーツ施設設計、年500億円・税収15億円を生む公民連携モデルを読み解く。

Field & Future 編集部読了 約5分
球場が街になる──エスコンフィールドHOKKAIDOがDBJ Green Building 5つ星で示した、ボールパーク型まちづくりの設計図

野球場が「街」になる時代が始まっている。2023年3月に開業したエスコンフィールドHOKKAIDO、そしてそれを内包する約32ヘクタールの「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」は、日本のプロスポーツ施設史において単一施設投資としては過去最大級——総事業費600億円を投じた一大プロジェクトだ。注目すべきはその規模だけではない。新球場はDBJ Green Building認証で最高等級の5つ星を取得し、サステナビリティボンド100億円で資金調達された。サッカースタジアム脱炭素が「箱の脱炭素」だとすれば、Fビレッジは「街の脱炭素」を実装した日本初のスポーツ施設と言える。

DBJ Green Building 5つ星——野球場としては稀有な認証取得

DBJ Green Building認証は日本政策投資銀行が運営する不動産の環境・社会性能評価制度で、最高等級の5つ星は「認証水準を超える物件の上位10%のみに付与される」。オフィスビルや商業施設での取得例は増えているが、プロスポーツ施設で5つ星を取った事例は極めて限定的だ。

エスコンフィールドが評価された主な項目:

・省エネ・省資源型の建築設計:開閉式屋根(リトラクタブル・ルーフ)+大型ガラスウォールにより、自然光と外気を最大限に取り込む構造

・天然芝育成のための日照設計:PCライン(投手と捕手を結ぶ軸線)を南東向きにして、ガラスウォールから日照を効率的に取得

・周辺環境との調和:テラス・屋上庭園を組み込んだランドスケープ

・防災機能:約35,000人が3日間使用可能な水を確保——スタジアムが地域の災害時インフラとなる設計

サステナビリティボンド100億円——金融とボールパークの新しい関係

新球場の建設資金の一部は、2021年2月に発行されたサステナビリティボンド100億円(償還10年)で調達された。SMBC日興証券と野村證券が主幹事を務め、新球場建設・リファイナンスに充当された。

スポーツ施設としては国内初の試みに近い。サステナビリティボンドは、調達した資金を環境・社会的課題の解決に充てることを投資家に約束する債券で、ESG投資家の資金を呼び込む手段として活用されている。総事業費600億円のうち100億円をESG市場から調達した事実は、プロスポーツ施設が「ESG投資の対象になる」時代の幕開けを意味する。

これがJリーグの新スタジアム建設や、Bリーグの新アリーナラッシュにも波及する可能性は高い。「環境性能の高い設計」が「資金調達コストを下げる」——金融市場と環境設計が一直線に繋がる時代に、スポーツ施設は対応を迫られている。

32ヘクタールの「街」を脱炭素化する発想

Fビレッジが画期的なのは、球場単体ではなく約32ヘクタールの街区全体を一体設計している点だ。球場のほか、複合施設TOWER 11(ホテル、ミュージアム、温浴施設の5階建て6層)、商業施設、レストラン、アスレチックパーク、公園が含まれる。

サッカースタジアムの脱炭素議論では、「スタジアム単体のZEB化」「再エネ電力導入」「ファン移動の削減」が論点になる。これらは重要だが、「箱」の最適化に留まる。Fビレッジは違う発想を持つ。球場を中心にした街区を一体運用することで、エネルギー需給の平準化、物流の効率化、廃棄物処理の集約化、コミュニティ機能の付加といった「街レベル」の最適化を狙える構造になっている。

これは2024年に開業したエディオンピースウイング広島(ZEB Ready取得)や、2025年のLaLa arena TOKYO-BAY(ZEB Oriented認証)が「箱」のレベルで進めている脱炭素化を、1段階上のレイヤーで実装していることを意味する。

公民連携モデル——北広島市が動かした「年500億円・年税収15億円」のメカニズム

Fビレッジが成立した最大の要因は、北海道北広島市の公民連携戦略にある。市は2016年6月から日本ハム球団との誘致協議を開始し、2018年に正式合意。「未整備公園をきっかけとした官民連携プロジェクト」として位置付け、土地提供・インフラ整備・規制緩和を含む包括的な支援を行った。

注目すべきはその経済インパクトの規模だ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの統合的価値評価レポート等の試算によれば:

・年間経済直接効果:500億円以上(北広島市単独)

・年間税収増効果:10〜15億円

・北海道全体の経済効果:年1,000億円超

・15年間の累計経済効果(2018〜2032年):8,400億円

・累計税収増(同期間):77億円

・年間来訪者目標:300万人以上(2023年度実績で道内約250万人+道外約100万人増の見込み)

人口約6万人の地方都市にとって、年10〜15億円の税収増は市の一般会計の数%規模に相当する。これは一過性のイベント効果ではなく、持続的な財源として街の運営に組み込まれていく。

公民連携と環境投資の「正のループ」

ここで重要なのは、この経済効果がFビレッジの環境投資を長期的に支える原資になるという構造だ。サステナビリティボンド100億円の10年償還、太陽光等の環境設備の更新、32ヘクタール街区全体の継続メンテナンス——いずれも長期にわたる支出を要する。それを支えるのが、年間300万人規模の集客と、市の税収増による公的サポートのコンビネーションだ。

「環境性能の高い設計」が「ESG投資家からの調達コストを下げ」、「集客と税収増を生み」、「次の環境投資の原資になる」——この循環ループこそ、Fビレッジが他のスポーツ施設プロジェクトと一線を画す部分だ。

Jリーグのホームタウン制度との決定的な差

Jリーグは1993年のリーグ発足時からホームタウン制度を採用し、クラブと地元自治体の緩やかな連携を制度化してきた。しかし、ホームタウン制度は理念ベースの連携にとどまり、税制上の特例措置や都市計画レベルの規制緩和、長期インフラ投資の一体運用には発展しにくい構造を持つ。

一方Fビレッジは、北広島市が「都市再生プロジェクト」として位置づけることで、都市計画レベルでの規制緩和と一体運用を可能にした。スタジアム単体ではなく32ヘクタールの街区を新設するため、用途地域の変更・周辺道路整備・上下水道インフラ・公共交通アクセス整備を市の都市計画と連動させて実装できる。Jリーグの新スタジアム計画が複数の自治体で頓挫している理由の本質は、技術や予算の問題よりも、この「自治体側の長期インセンティブ設計」が描けていない点にある。

「30年後の街の姿」を逆算する意思決定

他の自治体がFビレッジモデルを横展開できるかは、「スポーツ施設の誘致が自治体財政の長期投資として割に合うか」という1点にかかる。北広島市は人口減少が進む中で「30年後の街の姿」を逆算してボールパーク誘致を決断した。短期的な負担(土地提供・インフラ整備の先行投資)を受け入れ、15年スパンで累計77億円の税収を取りに行く意思決定は、首長と議会の長期戦略合意がなければ成立しない。

Fビレッジが示したのは、スポーツ施設×自治体財政×環境投資の三位一体スキームだ。J1の新スタジアム計画、Bリーグの新アリーナラッシュ、ラグビーリーグワンの本拠地構想——いずれも、施設設計の議論より先に「自治体側の長期インセンティブをどう設計するか」を問わなければ、Fビレッジ型のスケールには到達できない。

「箱」から「街」へ——日本のスポーツ施設設計の次の問い

エスコンフィールドHOKKAIDOの開業から3年。Fビレッジは年間累計来場者数を着実に積み上げ、不動産市場・観光市場・スポーツ市場のいずれでも先行モデルとして言及されるようになった。

問われ始めているのは、こうしたボールパーク型まちづくりが他のスポーツ施設にも横展開できるのかという点だ。J1の新スタジアム計画、Bリーグの新アリーナラッシュ、ラグビーリーグワンの本拠地構想——どこまで「箱」を超えて「街」を設計できるか。Fビレッジが先頭を走り、日本のスポーツ施設は今、設計思想そのものをアップデートする岐路に立っている。

数値出典:日本ハム株式会社・大林組プロジェクト資料・北広島市公民連携サイト・三菱UFJリサーチ&コンサルティング統合的価値評価レポート(2021〜2024)

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