Jリーグ全60クラブを「気候変動ランキング」でスコアリング──12億円の助成金と欧州発SPLが変えるスポーツビジネスの評価軸
Jリーグが2026年、アジア初となる国際イニシアチブ「Sport Positive Leagues」に正式参画する。再エネ比率、廃棄物削減、選手教育など12項目で全60クラブをスコア化し順位を公開。上位クラブには3年総額12億円の助成金を傾斜配分する仕組みで、欧州4リーグに続く世界5番目の参画となる。気候変動対策を「可視化」し、競争原理で加速させる新制度の全貌を追う。
2026年秋、Jリーグに新しい「順位表」が誕生する。ピッチ上の勝敗ではなく、気候変動対策の進捗度を競うランキングだ。再生可能エネルギー比率、廃棄物削減、選手への環境教育──12項目で全60クラブをスコア化し、上位クラブには3年総額12億円の助成金を傾斜配分する。英プレミアリーグなど欧州4リーグが参画する国際イニシアチブ「Sport Positive Leagues(SPL)」に、Jリーグがアジア初参画を決めた背景には、天候中止試合が10年で5倍に急増した危機感がある。サステナビリティ開示が競争力を左右する時代、スポーツビジネスの評価軸が根底から変わろうとしている。
プレミアリーグ発、気候変動対策を「順位表」にする逆転の発想
2018年、英国のクレア・プール氏が立ち上げた「Sport Positive Leagues(SPL)」は、スポーツ界に独特の発想を持ち込んだ。環境対策を分厚いレポートで隠すのではなく、ファンが最も馴染んでいる「順位表」という形式で可視化する──それがこのイニシアチブの核心だ[1]。プール氏はUEFA環境諮問委員会のメンバーでもあり、スポーツと気候変動の交差点で国際的な影響力を持つ人物である[7]。2019年11月、BBCニュースがSPLを取り上げたことで一気に注目が集まり[7]、「誰も読まない分厚いレポートではなく、誰もが理解できるリーグテーブル形式にすべきだ」という助言が、現在のフォーマットを生み出した[1]。この瞬間から、気候変動対策は「義務」から「競争」へと性質を変えたのである。
SPLが評価するのは、再生可能エネルギー、省エネルギー、廃棄物管理、交通手段、食品、生物多様性、教育など、計12項目にわたる[1][2]。単に「取り組んでいる」ではなく、「どの程度達成しているか」を数値化し、ポイント制で加重評価する独自スコアリングシステムを採用している[1]。たとえば、スタジアム全施設で使い捨てプラスチックを完全に廃止すれば2ポイント、さらにファンとの連携を通じてその活動を促進すれば+1ボーナスポイントが加算される[7]。この評価手法の特徴は、「方針を掲げる」だけでは点数にならず、実際の削減量やモニタリング体制、外部評価実績など、具体的な成果が求められる点にある[1]。結果はリーグごとに集計され、年1回、順位表として公開される。
この仕組みはすでに欧州4リーグで実績を重ねている。プレミアリーグ(イングランド)、ブンデスリーガ(ドイツ)、リーグ・アン(フランス)、イングリッシュ・フットボールリーグ(EFL、英国2部以下)が2025年時点で参画済みであり[2][5]、各リーグの全クラブがスコアリング対象となっている。リバプールFCはペットボトル回収率を2021/22シーズンの25%から99%へ引き上げ[7]、かつてSPLランキング18位だったサウサンプトンFCは悔しさを糧に改革を進め、今ではリーダー的存在に成長した[7]。プレミアリーグでは現在、全20クラブにサステナビリティ担当者が配置されるまでになり[7]、環境対策が経営の標準機能として定着しつつある。
Jリーグは2025年4月、このSPLへの参画を正式に決定した[2][5]。世界で5番目、そしてアジアで初めての参画である[1][2]。J1、J2、J3の全60クラブがスコアリング対象となり、2025年は準備期間と位置づけられた[2]。2026年の特別シーズン(シーズン移行期)から正式エントリーし、同年1月から6月までの活動が評価対象となる[1][7]。スコアは同年11月に公開予定で[1]、初回は上位20クラブが発表される[7]。2026/27シーズン以降は、毎年7月から翌年6月までの1年間を評価期間とし、毎年11月にランキングが公表される継続的な制度となる[1]。
Jリーグがこの仕組みを導入した背景には、欧州が先行して得た知見がある。SPL創設者のプール氏は来日したカンファレンスで「SPLは、スポーツ界全体が気候変動に対してどのようなアクションを取っているかを数値化し、それを促進するためのプラットフォームです。ピッチ上で勝利を目指すのと同じように、環境対策でも互いに高め合う。このポジティブな競争こそが、変化を加速させるエンジンになります」と述べている[7]。順位表という可視化によって、環境対策は「善意の活動」から「競争力の源泉」へと変質する。パートナー企業にとっても「このクラブの取り組みを誇りに思う」というファンの熱量は強力な訴求材料となり[7]、サステナビリティがビジネスの武器として機能し始めるのである。
日本財団が3年12億円を拠出、ランキング連動型「傾斜配分」の衝撃
Jリーグは2025年4月、日本財団の助成を受けて「Jリーグサステナビリティ事業活動助成金制度」を新設した。初年度の助成総額は2億4000万円で、2026年度以降も含めた3年間の総額は11億9000万円に達する [2][3]。1クラブあたりの申請上限は400万円だが、SPLで定義される12の評価カテゴリーごとに複数回の申請が可能という設計になっており、「再生可能エネルギー」と「使い捨てプラスチック削減」の両方に取り組むクラブは、それぞれに助成を受けられる仕組みだ [4]。この柔軟な制度設計は、各クラブが自らの強みや地域特性に応じて気候アクションを選択・強化できるよう配慮されている。助成金の原資には日本財団の新たな助成プログラムが活用され、明治安田Jリーグワールドチャレンジ2025のチャリティパートナーとしての連携も背景にある [4]。
2025年度は「準備期間」と位置づけられ、助成金は申請ベースで均等に配分される。しかし2026年秋にSPLから最初のスコアとランキングが公表された後は、配分方式が大きく変わる [2][3]。ランキング上位のクラブにより多くの助成金が配分される「傾斜配分」が導入されるのだ [4]。この仕組みは、各クラブに対して気候アクションの実効性を高めるインセンティブを与えるだけでなく、ファンやスポンサー、自治体といったステークホルダーに対して「環境への真摯な取り組み」を可視化する効果も期待されている。辻井隆行執行役員は、「各クラブの良い取り組みを参考にして、Jリーグ全体で気候変動の問題に前進していく」と語り、ランキングを競争ではなく協働のきっかけとして位置づける姿勢を示した [6]。
従来、Jリーグの各クラブは独自にサステナビリティ施策を展開してきたが、その活動は「点」で終わることが多かった。リユースカップの導入やホームタウンでの植樹活動など、個別の取り組みは評価されても、クラブ間での知見共有や横展開は限定的だったのだ [3]。SPL参画により、この状況は一変する。12項目の評価基準に沿ってスコア化されることで、どのクラブがどの分野で先進的な取り組みをしているかが一目で分かるようになる。さらに、SPLのプラットフォームを通じて欧州の先進事例にもアクセスできるため、「プレミアリーグのクラブがどのように再エネ比率を高めたか」「ブンデスリーガでどのような廃棄物管理手法が効果を上げているか」といった具体的なノウハウを学べる環境が整う [4]。
Jリーグはこの助成金制度と並行して、総額3.7億円規模の「Jリーグサステナビリティ事業活性化プロジェクト」も発足させた [4]。このプロジェクトの中核には、クラブ向けの「Jリーグ気候アクションハンドブック」の作成(2025年6月頃公開予定)や、ステークホルダー向けの教育コンテンツ整備が含まれる [4]。ハンドブックはSPLの評価基準や12項目の具体的な活動例を解説し、クラブが自らの状況に応じた計画を立てやすくするためのガイドとなる。加えて、Jリーグ全体で2030年までに温室効果ガス排出量をスコープ3含めて50%削減する目標も掲げており [2]、2026年からは法人全体の事業活動に関してスコープ1・2・3の算定を開始する予定だ [4]。助成金とランキング、そしてハンドブックによる知識共有──この三位一体の仕組みが、Jリーグの気候アクションを「点」から「面」へと押し上げる設計となっている。
天候中止が10年で5倍──Jリーグが気候変動を「経営リスク」と位置づける理由
1996年から2017年までのJリーグで、天候を理由に中止された試合は年平均1.86試合にとどまっていた。ところが2018年から2024年の7年間では、その数字は9.57試合へと急増している[3]。わずか10年足らずで中止試合数が約5倍に膨らんだ背景には、ゲリラ豪雨に代表される局地的な豪雨の頻発がある[3]。夏場を中心に予測困難な気象現象が増えており、試合運営そのものが「当日まで開催可否が読めない」リスクを抱える事態が日常化しつつある。この変化は単なる不運ではなく、気候変動が競技運営に直接的な打撃を与えている証拠だと、Jリーグは認識している[3]。
影響は試合の中止にとどまらない。ジェフユナイテッド市原・千葉は2024年夏、わずか3カ月の期間でクラブ主催のサッカースクール65クラスを中止に追い込まれた[7]。猛暑と雷雨が重なり、子どもたちが安全にプレーできる環境を確保できなくなったためだ[7]。野々村芳和チェアマンは「子どもたちのプレー環境が制限され、週末の楽しみが奪われかねない」と危機感を表明している[3]。Jリーグは年間で延べ1250万人の入場者を集め、全60クラブが国土の87%をカバーする影響力を持つ組織である[3]。その規模とネットワークを活かし、気候アクションを推進することは必然であり、社会的責務でもあるとJリーグは位置づけている[3]。
経営の観点からも、気候変動対策は戦略的に重要性を増している。野々村チェアマンは「社会問題や環境に向き合うことが企業との関係を深め、新しいパートナーシップ構築にもつながっています」と明言した[7]。実際、近年は環境・ESG領域への取り組み姿勢が、スポンサー企業の選定基準に組み込まれるケースが増えている。環境対策を怠れば企業パートナーからの評価を失い、逆に先進的な取り組みを示せば「共創相手」としての価値が高まる構図が生まれている[7]。野々村チェアマンはさらに「それが結果として、クラブやリーグの価値向上に寄与します」と語り、サステナビリティが単なるコストではなく、収益とブランド力を左右する経営要素であることを強調した[7]。
Jリーグ執行役員の辻井隆行氏は、気候アクションの本質を「発信力」に見出している。「社会全体の中で見ると、Jリーグ・クラブが実際に削減できるCO2排出量はごく小さいかもしれない。ただし、Jリーグには"発信力"がある」と述べ、年間1350万人のファン・サポーター、自治体、学校、金融機関、企業といったステークホルダーと連携し、「社会システムを変えることに力を使うのが大事」だと語った[7]。つまりJリーグの役割は、自らの排出削減だけでなく、地域社会全体に気候アクションの波を広げるハブ機能にある[7]。SPL参画を通じて各クラブの取り組みをスコア化し、好事例を可視化・共有することで、点在していた活動を線に、そして面へと拡大させる狙いがここにある[3][7]。
「再エネ40%目標」「焼却率50%削減」──12項目評価基準の実務的インパクト
Sport Positive Leaguesがクラブに求める12の評価項目は、スポーツ組織として取り組むべき環境対策を包括的に網羅している。最も基礎となる第1項目は「ポリシーとコミットメント、レポーティング」で、サステナビリティ全体や環境に係る方針・戦略の策定と、Scope1から3までの温室効果ガス排出量を含む客観的情報の公表が求められる[1]。Jリーグはすでに2030年までにScope3を含むGHG排出量50%削減という明確な目標を掲げており[1][2]、この基盤の上に各クラブの取り組みが評価される仕組みだ。この第1項目だけでも、多くのクラブにとって初めての本格的な環境データ開示となり、経営の透明性向上につながる重要なステップとなる。
エネルギー関連では、第2項目の「再生可能エネルギー」が大きな柱となる。クラブは再エネ比率40%以上を目標に取り組むことが求められ、複数の関係者と継続的に連携・協業できる社会システムの構築が評価される[1]。第3項目の「エネルギー効率」では、体系的な方針・戦略の策定、モニタリング体制、そして外部評価の実績が問われる[1]。欧州では、リバプールFCが2023年にISO20121(持続可能なイベント運営のためのマネジメント規格)をプレミアリーグのクラブとして初めて取得するなど[1]、第三者認証を通じた客観的な評価が進んでいる。日本でも、こうした国際規格の取得がクラブの信頼性向上とパートナー企業との関係強化に寄与する可能性が高い。
廃棄物管理と資源循環の領域では、具体的な数値目標が設定されている。第5項目の「使い捨てプラスチック削減・廃止」では、来場者エリアからスタッフ専用エリア、キッチンまでを対象に使い捨てプラスチックの除去を体系的に実施することが求められる[1]。第6項目の「ゴミの削減管理」では、焼却率を50%に削減する目標が明示され、廃棄物管理・リサイクルプログラムの導入と3R(リデュース・リユース・リサイクル)の実践が評価される[1]。セレッソ大阪がスタジアムグルメでのプラスチック削減状況を見える化し、生ゴミから肥料を作って野菜を育てる取り組みを展開しているのは[7]、まさにこの評価項目を先取りした好事例といえる。
移動と食に関する項目は、スポーツイベント特有の環境負荷に焦点を当てている。第4項目の「環境負荷の少ない移動手段」では、環境配慮型の移動ポリシーを目に見える形で提唱し、具体的な施策を実施することが求められる[1]。ジェフユナイテッド市原・千葉が親会社のJR東日本と連携し、電車利用を促すデジタルスタンプラリーを実施した事例[7]は、公共交通機関の利用促進という明確な成果を生み出している。第8項目の「プラントベース・低炭素食品」では、環境の観点から持続可能性基準を満たす、あるいは客観的根拠や意図的努力を踏まえた調達を行った食品・食材での提供が評価される[1]。ブリストル・シティFCでは、サステナブルな商品であれば価格が10ペンス高くてもファンが納得して購入する文化が定着しており[7]、価値に基づく消費行動への転換が可能であることを示している。
教育とコミュニケーションは、単なる広報活動ではなく実質的な行動変容を促すツールとして位置づけられている。第10項目の「教育」では、全ての選手(男女、アカデミー選手等)に対して、PR目的ではなく環境の持続可能性・気候変動に関する教育プログラムを実施することが必須となる[1]。セレッソ大阪が社員や選手全員にサステナビリティ検定を受験させた取り組み[7]は、組織全体の意識改革を徹底する好例だ。第11項目の「コミュニケーションとエンゲージメント」では、クラブ公式HP上にサステナビリティのWebページを設置し、ファン・サポーターの環境意識や行動変化に積極的に取り組むことが求められる[1]。これらの項目に共通するのは、「見せるための活動」ではなく「実際に変化を生む活動」が評価されるという点だ。
評価制度の特徴は、基礎点に加えてボーナスポイントが設定されている点にある。各項目で基礎的な取り組みを実施すれば基礎点が得られるが、ステークホルダーとの協働—ファン、自治体、パートナー企業などとの連携—を実現できれば、ランキングが実質的に上昇する仕組みだ[1][2]。つまり、クラブ単体での努力だけでなく、地域社会やビジネスパートナーを巻き込んだ広がりのある活動ほど高く評価される。この設計思想は、Jリーグが掲げる「社会システムを変える」という理念[7]と完全に一致している。各クラブが削減できるCO2排出量は個別には小さくとも、60クラブが年間1350万人のファン・サポーターや無数のステークホルダーと連携すれば[7]、社会全体に与えるインパクトは計り知れない。SPLのスコアリングシステムは、この波及効果を数値として可視化し、クラブ間の好事例共有を促進する「学び合いのプラットフォーム」として機能する設計になっているのである。
スペイン「週8時間ESG研修」、英国「株主キャンペーン」──欧州が先行する理由
欧州では、気候変動対策は「やるべきこと」ではなく「やらなければクラブが立ち行かない」経営上の必須事項として位置づけられている。その背景には、ファン・株主・政府による強力な圧力と、組織体制としての構造化がある。スペインのプロサッカーリーグ「ラ・リーガ」では各クラブのESG担当者を集めて週に8時間の研修を開くほど力を入れる[3]。これは単なる啓発活動ではなく、実務レベルでの知識共有と標準化を目的とした体系的プログラムだ。欧州主要リーグの各サッカークラブは、「ESG(環境・社会・ガバナンス)担当者」を置くことが標準化されており[3]、組織として環境対応を位置づける動きが定着している。英国プレミアリーグに所属するリバプールFCは2023年、持続可能なイベント運営のためのマネジメント規格「ISO 20121」の認証を取得し、プレミアリーグのサッカークラブとして初めての快挙となった[3]。
英国では特に、グリーンウォッシュ(環境によいことをやったふり)を排除する社会的圧力が強い。サステナビリティへの意識が高い英国では、ファンや株主、政府が各クラブに対して、環境性や社会性を強く求めるキャンペーンを頻繁に行っている[3]。ブリストル・シティFCのサステナビリティ担当責任者ピーター・スミス氏は「劣悪な労働環境で作られた安価な製品は扱わないなど、"正しくないことはしない"基本理念を貫いた結果、世界的な大手銀行スタンダード・チャータードのようなパートナーとの連携構築につながった」と語る[7]。容器の価格が10ペンス高くても、妥当な理由があればファンは納得して購入するという実績が示すように、消費者は企業の姿勢に敏感に反応する。この「正しさを問う文化」が、欧州クラブの環境対応を実効性のあるものに押し上げている。
組織体制の構造化も進んでいる。プレミアリーグでは現在、全20クラブにサステナビリティ担当者が配置されるようになった[7]。これは単なる肩書きではなく、予算を持ち、経営陣に直接報告する権限を備えたポジションだ。リバプールFCでは2021/22シーズンに25%だったペットボトル回収率が99%まで上昇し、以前SPLで18位だったサウサンプトンFCは悔しさを糧に今ではリーダー的存在へ成長した[7]。こうした変化の背景には、担当者が専任で配置され、データ収集・分析・改善のPDCAサイクルを回せる体制があることが大きい。単発のキャンペーンではなく、継続的な改善プロセスとして組織に組み込まれている点が、欧州の先進性を象徴している。
SPL創設者のクレア・プール氏は「SPLは、スポーツ界全体が気候変動に対してどのようなアクションを取っているかを数値化し、それを促進するためのプラットフォームです。ピッチ上で勝利を目指すのと同じように、環境対策でも互いに高め合う。このポジティブな競争こそが、変化を加速させるエンジンになります」と強調する[7]。2019年11月にBBCのニュースで取り上げられた際、BBCから「分厚いレポートは誰も読まない」と言われ、リーグテーブル(順位表)形式に辿り着いたという経緯がある[7]。単なる情報開示ではなく、ファンが馴染みやすい「順位」という形式を採用することで、メディアの注目を集め、社会的な議論を喚起する仕掛けとなっている。プール氏は「"自分のクラブの取り組みを誇りに思う"というファンの熱量は、パートナー企業にとっても魅力。サステナビリティをビジネスの武器として捉える必要があります」と述べ[7]、環境対応が新たな収益源になり得ることを示唆している。
欧州が先行する理由は、社会構造にある。ブリストル・シティFCのスミス氏は「現場を見てきて断言できるのは、サステナビリティは経営を圧迫するコストではない、ということです。むしろクラブのアイデンティティを強固にし、新たな収益を生み出している」と語る[7]。エネルギーや水の使用削減は環境への負荷を下げるだけでなく、クラブの資金節約に直結した実績がある。さらに、環境に配慮するクラブの姿勢がファンの信頼を獲得し、フードに関しても多少価格が高くてもサステナブルな商品を選ぶ人たちが増えているという[7]。欧州では環境対応が「コスト」ではなく「投資」として認識され、ファン・パートナー企業・自治体との関係強化につながる構造が確立されている。こうした成功事例の蓄積が、相互学習のプラットフォームとしてSPLの価値を高め、参加リーグ・クラブ数の拡大を後押ししている。
2026年秋、最初のランキング公開──「サステナビリティ開示」が競争力を左右する時代へ
2026年秋、世界は初めてJリーグ全60クラブの「気候変動ランキング」を目にすることになる。2025年6月には「Jリーグ気候アクションハンドブック」が公開され、すべてのクラブが評価基準と具体的な活動指針を共有する段階に入る [4]。このハンドブックは一般にも公開される予定で、ファンやサポーター、地域の自治体、そしてパートナー企業も、クラブがどのような基準で評価されるのかを知ることができる。SPLの12項目マトリクスをベースとしつつJリーグ独自の評価基準が設定されるため、欧州と同じ土俵で比較可能でありながら、日本の気候風土や地域特性に即した評価が可能になる [4]。これは単なる「お手本のコピー」ではなく、Jリーグが主体性を持ってサステナビリティ開示の仕組みを設計していることを意味する。
2026年1月、移行期の特別大会から正式エントリーが始まり、同年秋を目途にSPLより初回のスコアと順位が提示される [4]。この結果はSPL公式サイト(登録制)で公開されるだけでなく、Jリーグ公式サイトにも転載され、広く一般に認知される仕組みが整えられる [6]。Jリーグ執行役員(サステナビリティ領域)の辻井隆行氏は「各クラブの良い取り組みを参考にして、Jリーグ全体で気候変動の問題に前進していく」と明言している [6]。ランキング形式という「スポーツファンに馴染みのある」表現方法は、複雑な環境指標を誰にでも理解しやすい形で可視化し、クラブ間の健全な競争を促す装置として機能する。初回は上位20クラブが公表される予定だが [7]、これは恥をかかせるためではなく、優良事例を横展開し「全員で勝つ」ための設計である。
このランキングが持つ最大の意義は、Jリーグの現在地を世界の中で相対化できる点にある。プレミアリーグ、ブンデスリーガ、リーグアン、そしてイングランドEFLチャンピオンシップという欧州4リーグに続き、Jリーグはアジア初の参画リーグとなった [4]。これにより、同じ評価軸で世界のトップリーグと自分たちの立ち位置を比較し、何が足りないのか、何を目指すべきかを具体的に把握できるようになる。Sport Positive創設者兼CEOのクレア・プール氏は「ピッチ上で勝利を目指すのと同じように、環境対策でも互いに高め合う。このポジティブな競争こそが、変化を加速させるエンジンになる」と語っている [7]。世界との比較は、Jクラブにとって目標設定を具体化し、達成へのロードマップを明確にする羅針盤となる。
地域に根ざすJクラブにとって、SPLランキングの公開は信頼性を左右する転換点になる可能性が高い。年間のべ約1250万人の入場者を抱え、全国土の87%をカバーするJリーグのネットワークは、気候変動対策における「社会的影響力」の源泉である [6]。辻井氏は「社会全体の中で見ると、Jリーグ・クラブが実際に削減できるCO2排出量はごく小さいかもしれない。ただし、Jリーグには"発信力"がある。ファンやサポーター、自治体、学校、金融機関、そして企業の皆様と一緒に、社会システムを変えることに力を使うのが大事」と述べている [7]。環境への貢献状況が客観的に開示されることで、自治体や企業はパートナーシップの判断材料を得やすくなり、ファンは自分の応援するクラブが地域の未来にどう貢献しているかを誇りに思える。サステナビリティ開示が、クラブの地域ハブとしての信頼性を高め、長期的な競争力を左右する時代が、2026年秋から本格的に始まる。
参考文献 / Sources
https://www.jleague.jp/climateaction/spl/
https://sustainablejapan.jp/2025/04/23/j-league-sport-positive-league/112845
https://www.alterna.co.jp/154884/
https://aboutj.jleague.jp/corporate/pressrelease/article/15508
https://www.nikkansports.com/soccer/news/202504220000906.html
https://halftime-media.com/interviews/jleague-spl/
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