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波の前にゴミを拾う──サーファーが切り拓く、海洋プラスチック問題の最前線

年間800万トンの海洋プラ流入。最初に異変を感じたのはアスリートだった。Surfrider、WSL PURE、五十嵐カノア、ハワイのSustainable Coastlines──マリンスポーツが切り拓く海洋環境保全の最前線を読み解く。

Field & Future 編集部読了 約5分
波の前にゴミを拾う──サーファーが切り拓く、海洋プラスチック問題の最前線

海に最初に異変を感じるのは、海で生きる人間だ。研究者や行政の警告が出るずっと前から、波待ちの最中に流れてくるレジ袋を見ていたのはサーファーであり、ポイントブレイクのリーフに絡みついた漁網を解いていたのはダイバーだった。世界では毎年800万トン以上のプラスチックが海に流入し、日本だけでも推計2,300〜27,000トンが沿岸から海へと流れ出ている。この危機の最前線で、いち早く動き始めたのがマリンスポーツのコミュニティだ。

海洋プラ問題の現在地──数字で見るスケール

環境省が2024年度に公表した推計によれば、日本から海へ流出するプラスチックごみは年間2,300〜27,000トン。数字に幅があるのは推計手法の限界を示しているが、現実に日本全国の海岸では年間約2万トンの漂着ごみが確認されており、その約7割がプラスチックで占められている。世界に目を向ければ、海洋に蓄積しているプラスチックごみの総量は推定75億〜199億トン。このペースが続けば、2050年には海中のプラスチック量が魚の量を上回るとの試算もある。

問題の規模に対して、行政や産業界の対応は遅い。プラスチック生産量自体はOECDの集計で2019年に3億5,300万トンに達し、リサイクル率はわずか9%。海に流れ出る前段階での削減ですら追いついていないのが現状だ。

サーファーが先頭を走る理由──「現場」が職場だから

国際環境NGO「Surfrider Foundation」は1984年にカリフォルニアで設立され、世界各地に支部を持つ。日本支部のSurfrider Foundation Japanが提唱する「ONE HAND BEACH CLEAN UP(ワンハンドビーチクリーンアップ)」は、海から上がるとき片手にゴミをひとつだけ持って帰るという極めてシンプルなアクションだ。「サーフボードを片手に持ち、もう一方の手でゴミを拾う」姿が当たり前になることで、サーファーの声が政治・行政・企業を動かす――そんな仕組みを設計している。

公益社団法人日本サーフィン連盟(NSA)も毎年9月の第1・第2日曜日に「NSA SURFERS BEACH CLEAN ACT」を全国一斉開催している。2025年は9月7日・14日に実施予定で、トップ選手から市民サーファーまで含めた大規模な海岸清掃活動として定着した。3月には鴨川市の東条海岸で行われたワールドゲームズ日本代表選考会後、選手たちが小さなプラスチック片を拾い続けたという報道もある。プロサーフィンツアーでは、ごみ袋にプラスチック製ではなく麻袋を採用するなど、運営自体の脱プラスチック化も進む。

五十嵐カノアと「SHISEIDO BLUE PROJECT」──個の発信が動かすもの

東京2020・パリ2024の両五輪でメダルを獲得した五十嵐カノア選手は、2019年から資生堂の「SHISEIDO BLUE PROJECT」アンバサダーを務めている。世界各国で40回以上のビーチクリーンに参加し、ポルトガルでは魚網の修復、アメリカでは牡蠣による水質改善、オーストラリアでは植樹による海岸侵食防止、タヒチではサンゴ再生プロジェクトに関わっている。

アスリート個人と化粧品ブランドのコラボレーションは、単なる広告契約を超えた構造を持つ。海を守る活動の費用を企業が出し、選手が現場とSNSで可視化する。スポンサー側には「環境配慮ブランド」としての価値が積み上がり、選手側には現役引退後も続くキャリアの軸ができる。「アスリートのアドボカシー(提唱)×企業のCSR」という設計は、他のマリンスポーツにも横展開できる雛形になり得る。

WSL PURE──プロリーグがつくる、海洋保護の収益モデル

プロサーフィンの世界最高峰リーグ「World Surf League(WSL)」は、2018年に501(c)(3)非営利団体「WSL PURE」を設立した。PUREは Protecting, Understanding, Respecting the Environment の頭文字。気候変動・プラスチック汚染・沿岸破壊の3領域に絞ったグラントプログラムを運営し、グラスルーツの環境団体に助成金を提供している。

WSL本体もカーボンニュートラルを宣言し、大会会場でのシングルユースプラスチックを廃止。アスリートの移動・大会運営・放送制作までを含めたカーボンフットプリントを算定している。プロスポーツリーグが「環境保護を組織の中核に組み込む」前例として、WSL PUREはJリーグやBリーグの今後の参考事例にもなる。サッカー・バスケが施設の脱炭素を進めるとすれば、屋外スポーツのリーグは「現場の自然環境そのものへの還元」をどう設計するかが問われる。

ハワイ「Sustainable Coastlines Hawaii」──観光地が示す市民参加型モデル

ハワイのNPO「Sustainable Coastlines Hawaii」は2010年設立。これまでに数千人のボランティアと共に50万ポンド(約227トン)以上の漂着ごみを回収してきた。ハワイの海岸には日本・韓国・中国を含む東アジアからの漂流物に加え、太平洋ゴミベルトからの漂着物も流れ着く――この事実は、海洋プラ問題が国境を超えた問題であることを示している。

同団体の特徴は2012年から運営する「SUSTAINEVENTs」プログラム。イベント運営者向けに「サステナブルイベントの認定基準」を提供し、サーフィン大会・トライアスロン・マラソンなどがプラスチックフリー化を実現するための実務支援を行っている。観光客もWebサイトから参加可能で、レスポンシブルツーリズムの中核プレイヤーになっている。日本のマリンスポーツ業界が次に学ぶべきは、こうした「市民・観光客・選手を巻き込む参加設計」の部分だ。

日本のマリンスポーツ業界に問われる次の一手

サーフィンが先行するのは事実だが、SUP・トライアスロン・オープンウォータースイミング・カヤックなど、海を舞台にする全てのスポーツが同じ責任を負う。今後問われるのは、(1)競技団体としての組織的な取り組み、(2)アスリート個人のアドボカシーをスポンサーが支援する仕組み、(3)大会運営そのもののプラスチックフリー化、(4)ファンや観光客が参加できる導線設計、の4点だ。

海から来るゴミは海でしか拾えない。そして、海で活動する人間こそが、その現場の最前線にいる。サーファーたちが切り拓いた道筋を、マリンスポーツ全体がどう広げていくか――2026年のGWを境に、日本の海辺で起きつつある静かな変化に、もう少し目を向けてみたい。

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